「知事失格」北風だけを吹かせ続けた

小林氏:南アルプスのトンネルは、大井川の地下400mくらいのところを通ります。どれだけ地下を通るにしても、工事には河川管理者である静岡県知事の許可がいります。

 川勝知事は、現場から100キロ以上も離れている下流の利水に影響が出るので許可は出せない、という論理を展開し始めました。南アルプスの植物や動物、利水への懸念をすべて解消しろと訴えました。

 4期目を目指した前回2021年の知事選では、「命の水を守る」ということをキャッチフレーズにしていました。実際、静岡県の水が他県に引っ張られるという川勝氏の主張は、私は信ぴょう性が乏しいと思っています。

◎参考:小林一哉『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太 「命の水」の嘘』(2022年、飛鳥新社)

 流れ出す水を全量戻せと言っていますが、この主張によってリニア工事計画はもう混乱しています。私には、川勝知事はじめ静岡県庁総出で反対のための反対をしているようにしか見えません。

――川勝知事は今回、リニアについて「区切りを迎えた」と述べました。

小林氏:リニアの問題は非常に複雑です。400m地下の話ですし、そもそも南アルプスは静岡県の人が立ち入ることさえ大変なところです。本格的な登山客か渓流釣りの人以外、ほとんど入らない。そんな地域をめぐって、川勝知事が南アルプスの保全が大事だと言っても、多くの県民が理解することさえ難しいでしょう。

 それでも、一般の県民は「川勝知事は環境に一生懸命で、頑張ってくれているね」というイメージを抱いています。「命の水を守ってくれる知事さんなんだ」というイメージが、川勝知事の人気の理由の一つになっていると思います。

2022年8月、リニア工事の現場を視察する川勝知事(写真:筆者撮影)2022年8月、リニア工事の現場を視察する川勝知事(写真:筆者撮影)
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 ただ実際は、風呂敷を広げるだけ広げ、最後は放り投げたというだけ。川勝知事がまずかったのは、北風をビュービュー吹かし続ければ、JR東海が上着を脱ぐだろうと高をくくっていたことです。

 政治はそれだけではないはずです。川勝知事はとにかく厳しく、ギリギリやれば、JR東海が頭を下げると思っていた。

 6年間、風呂敷を広げ続けただけで何もしていません。水面下での交渉もない。静岡県にとってどんなメリットを引き出し、どうそこに向かうのかという展望もない。こんなのは政治じゃありません。

 落としどころを探る努力をしなかった。だから知事失格、政治家失格なのです。