旧知の葛西氏に門前払いに…「堪忍袋の緒が切れた」
――リニア中央新幹線の整備計画は、川勝知事退任でどう展開していくと予想しますか。
小林氏:新知事が誰になるか、どんな方針で挑むかということによるとは思います。ですが、川勝知事のようにいつまでも大風呂敷を広げっぱなしということはないでしょう。進度の差はあれ、落としどころを探る動きが出てくるのではないかと思います。
川勝知事がリニア整備計画に対し、強硬に異を唱えたのは2017年10月でした。当時、大井川流域の11ある利水団体とJR東海とが基本協定を結び、着工に向け詰めの段階に入っていたころです。
ところが、2017年10月10日の定例記者会見で「堪忍袋の緒が切れた」と。「JR東海は大井川流域の水問題を何も解決していない」「静岡県に誠意を示さない」などと言って、ちゃぶ台返しをしたのです。
静岡県は、そもそもあまり文句を言わない県です。ほどほどに豊かで、田舎があり、東京にも名古屋にも大阪にも近い。富士山があり、駿河湾があり、東名も新幹線も通っている。そういう地域ですから、JR東海も少し油断していたのではないかと想像しています。
リニアは静岡県内、南アルプスの先っぽをちらっと通るだけですからね。すんなりいくだろうとJR東海の方も高をくくっていたのではないでしょうか。
川勝知事は以前から、リニア協議の場で「静岡に何のメリットがあるんだ」ということを主張していました。山梨県も長野県も岐阜県も駅ができますが、静岡県にはできません。たしかに、川勝知事の主張の通りです。
そこで川勝知事は、2010年5月の協議で「東海道新幹線に静岡空港駅の新設整備を」と訴えました。
インバウンド客も増え、JR東海にもメリットがあるのではないか。350億円の事業費も静岡県が出す。協議の場で、とうとうとそう主張し始めたのです。
実は、JR東海の故・葛西敬之氏と川勝知事は旧知の仲でした。葛西氏が雑誌「Wedge」を作ったときから、川勝知事は寄稿者の一人でした。だから、川勝知事は葛西さんに掛け合えば、自分の主張を聞いてくれると思ったのではないかとみています。
ところが、葛西さんはつれなかった。門前払いされた川勝知事は、そこから怒りのボルテージを上げたのです。南アルプスのトンネルによって静岡県の水が他県に流出するということを主張し、2017年の「堪忍袋」発言へとつながっていきます。