厚生労働省発表の令和4年簡易生命表によると、75歳まで生存する割合は男性で75.3%、女性で87.9%、90歳までの割合は男性で25.5%、女性で49.8%となっている。平均寿命で見れば、男性は81.05年、女性は87.09年である。
医学の進歩によって飛躍的に伸びた寿命。仕事ができなくなっても、歩けなくなっても、寿命が尽きるまで生きるためにはお金も必要だ。そこまでに何を備えておけばいいのか──。『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)から考えて見よう。
※この記事は、『死に方のダンドリ 将来、すんなり逝くための8つの準備』(ポプラ新書)より一部抜粋・編集したものです。
(奥 真也:医療未来学者、医師、医学博士)
ここで、みなさんに質問です。お金の問題は別として、考えてみてください。「80歳まで生きるか、高価な老化の治療薬を飲んで120歳まで生きるか。あなたはどちらを選びますか?」
「永らえることができるのなら喜んで薬を飲む。120歳まで生きたい」という人。お金の問題がなくても「80歳と120歳だったら大して変わりはないから老化の治療薬は飲まない」という人。「長生きすれば老化の治療薬以外にもお金はかかるし、見守る家族の負担も大きいので、そこまでして長生きしたくない」という人もいるかもしれません。
いずれにせよ、高価な老化の治療薬を手に入れられる人はほんの一握りです。ほとんどの人はこれまで通りの薬を朝晩飲み、ある程度の健康維持をしながら老いと付き合っていく、というところに落ち着くのではないかと思われます。
80歳であれ120歳であれ、ここまで長生きすれば、致死的な病気はなくとも小さな不調や病気に見舞われる回数は増えていきます。残念ながら「無病息災」とはいきません。
これからは、ストレスにならない程度の摂生をしつつ、長い人生の中でやってくる不調や病気をやり過ごす「多病息災」、これこそが自然な姿といえます。
私たちの生きる時代は、長生きがほぼ不可避といっていい時代に突入しています。それならば、自分で口から食事ができて、ストレスはなるべく少なく、健康であることを目指す必要があります。つまり、老いても「Quality of Life(QOL=その人がこれでいいと思えるような生活の質)」は下がらない生活です。
長生きするからにはなるべく楽しく、自分らしく生きたいと思うのは誰にとっても当然の願いでしょう。
老いは止められませんし、身体の健康を完璧に保つのは難しいことですが、今は医療もテクノロジーも発達しています。老いによって昔のようにはできなくなったことを補ってくれるさまざまな選択肢が存在していますし、その選択肢はこれからますます増えるはずです。これらをうまく利用すれば、長生きを楽しめる心境になるでしょう。
ただし、そのためにはお金が欠かせません。妥協のない選択をしたければ、自分の懐からお金を出す必要があるからです。妥協のない選択とは、高額医療かもしれませんし、生活を豊かにする最先端のテクノロジーやデバイスかもしれません。
すでに「人間拡張」の技術を使って、外で働くことを実現できている事例もあります。