©Ars Techne.corp 原作品所蔵元:山梨県立博物館
(ライター、構成作家:川岸 徹)
葛飾北斎の代表作『冨嶽三十六景』を従来とは異なる視点で再構成したイマーシブな映像アート・エキシビジョン。「HOKUSAI:ANOTHER STORY in TOKYO」展が東京・東急プラザ渋谷で開幕した。
デジタル領域の技術力が結集
アート鑑賞の新しいスタイル、「イマーシブ(没入体験型)展覧会」が人気だ。イマーシブ展覧会とは既存のアート作品をベースにデジタル映像を制作し、音楽や光、香りなどの演出を加えて、来場者に没入感を体験してもらおうとするプログラム。日本にもオーストラリア発「モネ&フレンズ・アライブ」、フランス発「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」など海外制作の作品が相次いで上陸し、予想を上回る動員数を記録している。
今年2月1日、東京・東急プラザ渋谷で開幕した新感覚イマーシブ・エンタテインメント「HOKUSAI:ANOTHER STORY in TOKYO」展。これは純粋な日本生まれのイマーシブ展だ。監修は株式会社アルステクネの久保田巖氏。アルステクネ社は一般的な知名度は低いものの、美術関係者にはよく知られている。パリ・オルセー美術館の所蔵品をはじめ、国内外の文化財のデジタルアーカイブを制作し、絵画の再現力には「世界屈指」と称賛の声があがる。
久保田巖氏の監修のもと、クリエイティブチームにはデジタル領域や最先端テクノロジーの分野で日本を牽引する錚々たる企業が集結。RED、ギークピクチュアズ、さらにソニーPCL。クリエイティブチームは開催への思いをこのように語る。
「日本には非常に豊かな文化があります。文化の裏側にはそれを生み出した人々の価値観や考えがあるわけですが、日本の文化や価値観がグローバルに理解されているかというと、必ずしもそうとは言えません。日本に関心がないわけではなくむしろ高まっており、『日本の伝統や文化をもっと教えて!』と言われているのが今なのです。
絵画や彫刻、音楽や文学作品、伝統行事や景観などを『文化資産』と言ったりしますが、資産は眠らせておくと価値が目減りして、次の世代に引き継ぐことができません。今の時代にそれらをどう生かすのか。私たちの強みであるテクノロジーを使って文化資産を引き継いでいきたいし、『ANOTHER STORY』という事業をそのための基盤にしていきたいと考えています」
過去の名作をあるがままに鑑賞することも、もちろん重要。だがそれだけでは興味をもつ人が限られてしまう。クリエイティブチームは、一枚の絵に潜む物語を従来とは別の角度から読み解いて、イマーシブな映像作品として提示することを目指した。それが「ANOTHER STORY」だ。