身につけざるを得ない、強制退去させる側のテクニック
アーリーンとの話が終わり、400号室に戻ったシェリーナは、初めて強制退去を申し立てたときのことを思いだした。あのときは、わけがわからず不安で、何度も書類を見なおした。でも結局、思いどおりにことは運んだ。だから、そのあとすぐにまた、新たに強制退去を申し立てた。またその次も。
裁判所に提出する書類には、借家人の名前のあとに“およびその他の者”と書くコツも覚えた。そうすれば強制退去の判決は、その家に暮らす住人全員に適用される(たとえ彼女が知らない住人がいようとも)。
推定被害額を尋ねる欄には、認められている最高額に達しないことを示すために“5000ドル未満”と記入するのがいいというコツも覚えた。延滞料が55ドル以上になると調停人に眉をひそめられることも学んだ。裁判所に89ドル50セントの手数料を納付してでも滞納している借家人を法廷に引きずりだすのは、価値があることもわかった。
裁判沙汰になれば、なんとかして滞納分を返そうと本気を出す借家人が多かったから。手数料はあとで借家人への請求書に足せばいいだけだ。