欧米で進む規制、日本は遅れ
工業製品の製造や素材として有効であり、かつ、安定的とされた物質が、のちの研究によって実は人体に悪影響があると判明する事例は少なくありません。オゾン層を破壊するフロンガス、変圧器やコンデンサなどに幅広く使用されていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)などもそうした物質です。
社会を豊かにすると信じられていた物質が、やがて規制の対象になっていく――。PFASもそういった道筋をたどるかもしれません。各国の研究者による実験や検証は本格化して日も浅いのですが、研究結果は「発がん性」を疑わせるものが多く、妊婦や胎児に悪影響があるとの研究も発表されています。高脂血症の原因となることも分かってきました。
では、この物質をどのように扱えばよいのでしょうか。
政府の対策はまだ始まったばかりです。環境省の専門家会議は昨年夏、「PFOS、PFOAに関するQ&A集」を公表していますが、これは啓発目的。国の指針としては今のところ「PFOSとPFOAの合算値が1リットルあたり50ナノグラム以下」という水質管理基準(暫定目標)しかありません。
欧米諸国がいっそうの規制強化に進んでいるのに対し、日本は規制に積極的とは言い難いのが実情です。伊藤信太郎環境相も1月末の会見で、対策強化の必要性を論じるより科学的知見の収集が大切、との考えを示すにとどまりました。
一方、行政による詳細な実態把握の動きが必ずしも迅速ではないことから、住民による自主的な動きが各地で相次いでいます。市民団体や研究者らが自ら土壌や地下水を調査したり、住民の血液を検査したりしています。
昨年6月には東京・多摩地区の約650人について血中のPFAS濃度を調べたところ、環境省の2021年調査の全国平均の2.4倍になったとする結果を市民団体が公表しました。自治体の首長や議員が環境省などに要望するケースも増え、地方議会の選挙ではPFAS問題を訴える候補者も出るようになってきました。命や健康に直結する問題だけに、国民の関心がさらに高くなりそうです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。