筆者は福岡県在住で、太宰府天満宮にはたびたびお参りする。その御神域に仮殿を建てると聞いたときは「そんなスペースがあっただろうか」と疑問に思った。太宰府天満宮の境内は広いが、御本殿のある楼門内は、天神様が身近に感じられるような、比較的小さな空間だからだ。
しかし、実際に仮殿が完成してみると、楼門内はむしろ広くなったようにさえ感じられた。以前から太宰府天満宮を知る者として、この絶妙のスケール感が、最初の感動ポイントだった。建築家ってすごい。
杜や山の豊かな緑と響き合う
内外からの参拝者で賑わう参道を抜け、太宰府天満宮の境内に入ると、まず心字池にかかる3連の太鼓橋を渡ることになる。行く手に現れるのは壮麗な楼門。そして今、その楼門の向こうには、御本殿の屋根の代わりに、緑の森が浮かんで見える。なんとも不思議な光景だ。
近年、建築に木を植えることは、そんなに珍しいことではない。福岡ならば市街地の真ん中に、木々が生い茂る「アクロス福岡」、通称「アクロス山」がある。「仮殿」の設計者である藤本壮介氏の作品にも「白井屋ホテル」(群馬県前橋市)をはじめ、緑と渾然となった建築はある。
それでも太宰府天満宮の仮殿が特別なのは、前述のスケール感と浮遊感、そして何より、境内の豊かな杜(もり)との呼応ゆえだ。
ゆるやかな弧を描く軒先は、手前がぐっと低く抑えられ、奥に向かってせり上がる。軒の低さと木の高さの対比が、独特の浮遊感をつくりだす。加えてその軒先の薄さ。わずか12センチしかないという。いったいどこから木が生えているのか。