「みんなの建築大賞」候補の1作、賃貸集合住宅「天神町place」。馬蹄形の中庭、独特の表情をもつ外壁が、ここにしかない風景をつくり出す。東京都文京区/設計:伊藤博之建築設計事務所(写真:歌津亮悟)「みんなの建築大賞」候補の1作、賃貸集合住宅「天神町place」。馬蹄形の中庭、独特の表情をもつ外壁が、ここにしかない風景をつくり出す。東京都文京区/設計:伊藤博之建築設計事務所(写真:歌津亮悟)

(萩原詩子:編集者・ライター)

 いま、この記事を読んでいるあなたもX(旧Twitter)上の「いいね」で投票できる建築アワード「みんなの建築大賞 2024」の投票が始まった。投票期間は2024年1月29日から2月11日まで(詳しい投票方法は記事末で説明)。

「みんなの建築大賞」は、2023年中に完成・開業、または雑誌などで公表された国内の建築から選ばれた10作品について、一般の人が投票して“ベストワン”を決めるというものだ。対象となる10作品は、「この建築がすごいベスト10」として、魅力的な建築を広く伝える立場のプロ28人が、「世の中に向けて熱く伝えたい建築」として選んだもの。

「みんなの建築大賞」、「この建築がすごいベスト10」は、どちらも実施するのは今回が初めて。「建築家ではない建築関係者と一般の人」が選ぶ、という点が最大の特徴だ。

 創設した目的について、事務局のサイトでは次のように説明している。

<主旨>
既存の建築賞は、建築界の権威付けにはなっても、一般の人に全く伝わっていない。世界に誇る魅力的な建築の数々を一般の人に知ってもらう機会を逸し続けている(建築文化への理解が高まらない一因である)。そこで、メディアを介して確実に一般に発信され、またSNSによって選考過程自体が自然拡散される新たな賞を新設する。

<概要>
伝える立場のプロ約30人が、1年間の建築の中から「世の中に向けて熱く伝えたい建築」10件を選び、これを「この建築がすごいベスト10」として発表。その10件をツイッター上に掲載し、一般投票により、ベスト1「みんなの建築大賞」を選ぶ。

「この建築がすごいベスト10」は、「日本の建築の魅力をもっと広く、多くの人に伝えたい!」と願う「推薦委員会」が推す建築作品だ。筆者も推薦委員の1人として選定に関わった。選定の経緯を振り返りながら、決定した「ベスト10」をひとつずつ紹介する。

推薦委員が推す43作から10作を選定

 2023年の推薦委員は28人。半数近い13人が女性である。委員長の五十嵐太郎氏(東北大学教授)をはじめとする4人の建築史家に加え、建築メディアの編集者やライターといった、「建築をつくる人」と「受容する人」をつなぐ役割の人たちだ。筆者を含め、インテリアや家づくりなど、業界向けではない、一般読者向けの記事をつくる人もいる。

「ベスト10」を選ぶ手順はこうだ。まず、委員1人につき3作まで推しの作品を挙げる。この時点で候補に挙がった建築は43作に上る。超高層ビルや劇場、ミュージアムといった公共性の高い建築もあれば、個人の住宅も少なからず挙げられ、バラエティに富む。新築だけでなく、改修・再生も対象となった。

 このうち、多くの推薦票を集めた上位5件を、自動的に「ベスト10」に入れる。

 一般投票に影響を与えたくないので、どの作品が上位5件かは、ここでは内緒にしておくが(大賞決定後に報告する)、1位はダントツの10票を集めた。発表時から建築関係者のSNSを賑わせた作品で、筆者も「やはり」と納得した。いっぽうで、建築関係者であっても見る機会の少ない個人住宅は、1票にとどまる作品が多かった。

個人住宅ながらベスト10に食い込んだ「後藤邸」は、建築家の自邸。建築通をうならせた。神奈川県逗子市/設計:後藤武+後藤千恵/後藤武建築設計事務所(写真:宮沢洋)個人住宅ながらベスト10に食い込んだ「後藤邸」は、建築家の自邸。建築通をうならせた。神奈川県逗子市/設計:後藤武+後藤千恵/後藤武建築設計事務所(写真:宮沢洋)