最後に、2020年からのコロナ禍によって、在宅勤務が普及した。在宅勤務は子育て中の労働者をサポートする側面がある一方で、コロナ禍初期には保育所や学校の閉鎖もあったため、育児を主に担当している妻が育児と同時に仕事もしなければならないという状態が生み出され、在宅勤務がオフィス勤務の場合より妻の負担を増やす可能性があることも明らかになった。
しかし、筆者らの研究から、夫が在宅勤務をするようになると、家事・育児分担をもっと増やしたいと夫の意識が変わることが示されている*11。在宅勤務の普及は、明るい兆しであるかもしれない。
*1 総務省統計局『労働力調査(2022年)』
*2 OECD (2024), Gender wage gap (indicator). doi: 10.1787/7cee77aa-en (Accessed on 14 January 2024).
*3 ゴールディン, クラウディア (2023) 『なぜ男女の賃金に格差があるのか 女性の生き方の経済学』, 慶應義塾大学出版会.
*4 原ひろみ (2023) 「男女の賃金情報開示施策:女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異の算出・公表に関する論点整理」, RIETI Policy Discussion Paper Series 23-P-009.
*5 World Values Survey Wave 6: 2010-2014.
*6 Hara, H., and N. Rodríguez-Planas, "Long-Term Consequences of Teaching Gender Roles: Evidence from Desegregating Industrial Arts and Home Economics in Japan,” accepted at Journal of Labor Economics, 2023. https://doi.org/10.1086/728428
*7 https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/ . 2024年1月8日現在。
*8 Gulyas, A., S. Seitz and S. Sinha (2023) “Does Pay Transparency Affect the Gender Wage Gap? Evidence from Austria,” American Economic Journal: Economic Policy, Vol. 15, No. 2, pp. 236-255. Böheim, R., and S. Gust (2021) “The Austrian Pay Transparency Law and the Gender Wage Gap,” IZA DP No. 14206.
*9 Bennnedsen, M., E. Simintzi, M. Tsoutsoura, and D. Wolfenzon (2022) “Do Firms Respond to Gender Pay Gap Transparency?” The Journal of Finance, Vol. 77, pp. 2051-2091. Blundell, J., E. Duchini, S. Simion, and A. Turrell (2022) “Pay Transparency and Gender Equality,” available at SSRN. https://ssrn.com/abstract=3584259 .
*10 Yamaguchi, S., Y. Asai, and R. Kambayashi (2018) Effects of Subsidized Childcare on Mothers’ Labor Supply under a Rationing Mechanism, Labour Economics, Vol. 55, pp. 1-17.
*11 Hara, H., and D. Kawaguchi (2022) "A Positive Outcome of COVID-19?: The Effects of Work from Home on Gender Attitudes and Household Production," Bank of Japan DP 22-E-2.
原ひろみ
(はらひろみ) 明治大学政治経済学部教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員、副主任研究員、日本女子大学准教授を経て現職。主著に『職業能力開発の経済分析』(勁草書房、2014年、冲永賞)、『日本の労働市場ーー経済学者の視点』(共著、有斐閣、2017年)、『世の中を知る、考える、変えていく』(共著、有斐閣、2023年)。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・北朝鮮国民は知らない金与正「対日談話」の狙い
・本当は恐ろしいかもしれない“かわいいお爺ちゃん”を選んだインドネシア、その複雑な民主主義
・“使える”セキュリティ・クリアランス法制のために積み残されている課題(上)