相対化して見える、現代日本の弱さ
入山 経営学でもよく言われているのですが、イノベーションって「意外なところからくる」ものなんです。本流からイノベーションは起こらなくて、大体は傍流からやってくる。イノベーションを起こしたい分野のど真ん中からは、ほとんど起こらないわけですね。
ですから、今の村上義清のイノベーションが朝鮮まで影響している話は本当におもしろいと思います。
ちなみに信長にも「改革」の印象がありますが、信長は何がイノベーティブだったのでしょうか。軍制以外の部分だったのでしょうか。
乃至 あれほどの資産を一手に握った人物はそれまでほとんどいなかったので、その運用ではないでしょうか。しかも敵の裏をかきながらですから。それについて全身全霊で考えた人物だったと思います。
信長もそうですが、歴史のおもしろいところを探ろうとする時、作られた仕組みを紐解くよりも人間を紐解くほうが本質が見えてくるのかもしれませんね。
──こう振り返ると、なぜ日本がイノベーションを生み出せなくなってしまったのかが気になります。
入山 難しいですけど、僕が理由としてよく話すのは「日本は現場が強くて経営が弱い」こと。(新型コロナウイルスの)ワクチンも似ていますよね。現場は頑張っているけど、トップの意思決定が適切じゃない。
確かに孫正義さんや柳井正さんのように素晴らしい意思決定者もいるんですけど、その数が絶対的に足りない。日本は、大局を見て、大きなリスクをとって意思決定できる人が少ないと思います。
乃至 すごく分かる気がしますね。
入山 その理由についても、明確だと考えていることが一つあります。特に一部上場企業になると、社長の任期が短いことです。経営で勝負をかける時、イノベーションを起こす時って10年単位になるので、3年くらいではどうしようもないわけですね。
任期が3年の社長だとすると「自分の任期を無難に終わらせたい」と考えることは無理からぬ一面があります。ただ、それは徐々にチャレンジをしなくなるということも意味します。それが経営における日本の課題、ひいてはイノベーションが起きない理由の一つかなと思います。
──乃至先生、その点で昔の戦国武将は、むしろ血筋を長く伸ばさないといけませんから、イノベーションが起きるし、知の探索を続けていたと考えられる、とも言えますか。
乃至 そうですね。戦国時代はトップにいる人でも現場に行くわけですし、改革をしないと生き残れません。逆に、江戸になるとそういうことはなくなり、文化・技術が大きく発展していくわけです。
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乃至政彦氏の『謙信越山』以来となる待望の新シリーズ『謙信と信長』が開始。一次史料を解説する動画も見られるコンテンツ「歴史ノ部屋」の詳細はこちら
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