防衛用装備の輸出は我が国の安全保障を強める(写真は自衛隊の防空用地対空ミサイル=SAM、航空自衛隊のサイトより)

 2023年12月22日、日本政府は「防衛装備移転三原則」および「防衛装備移転三原則の運用指針」(以下「防衛装備移転三原則等」という)を改定した。

 旧ルールでは、「ライセンス生産品」の部品のみ、ライセンス元国に移転することを認めていたが、新ルールでは完成品もライセンス元国に移転できるようになった。

 ミサイルは完成品である。そして、国内でライセンス生産する地対空導弾パトリオット・ミサイルを米国へ移転(輸出)する方針を決定した。

 英BBCニュースは、これは、日本の長年の平和主義政策からの転換となると報じた(BBCニュース「日本、アメリカにパトリオット・ミサイル輸出へ『防衛装備移転三原則』を改定」2023年12月23日)。

 政府が三原則等の改定を発表した直後、外務省は自衛隊が保有するパトリオット・ミサイルの米軍への移転を発表した。

 声明で、同ミサイルを「米国に移転し、米軍の在庫を補完することは、米国との安全保障・防衛協力の強化に資するとともに、我が国の安全保障及びインド太平洋地域の平和と安定に寄与するものであることを日米間で確認しており、我が国の安全保障の観点から積極的な意義を有する」と説明した。

 三原則等の改正後の新ルールでも、国際紛争の当事国への武器輸出は認めていないが、米国への輸出は、米国のウクライナへの武器供与余力を高め、間接的に弾薬不足に苦しむウクライナを救うことになる。

 米ホワイトハウスはこの動きを歓迎した。米国は日本のこの決定によって、自国の備蓄ミサイルをウクライナに送れるようになった。

 ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、日本が地対空ミサイルシステム「パトリオット」を米国に輸出することを決定したことについて、ウクライナに供与されれば日本は「重大な結果」を負うことになると警告した。

 さて、2023年12月22日に政府が「防衛装備移転三原則等」を改正した内容は主に以下の6点である。改正内容の詳細は後述する。

①パートナー国が完成品を移転した第三国に対し、我が国から補用品(部品)や技術の直接移転を可能とする。

②ライセンス生産の装備品の完成品も輸出可能とする。

③戦闘機のエンジンや翼といった部品を含め部品は総じて輸出可能とする。

④米国以外の外国軍隊に対しても修理等の役務の提供を可能とする。

⑤5類型(救難、輸送、警戒、監視および掃海)にあてはまれば、殺傷能力のある武器を搭載したまま輸出可能とする。

⑥国際法違反の侵略などを受けている国に対して、防弾チョッキなど殺傷能力のない自衛隊の装備品を輸出可能とする。

 上記のように今回の改正によって、多くのことができるようになった。

 しかし、2023年7月5日、自民、公明両党の与党ワーキングチームが両党政調会長に提出した論点整理の中で、容認すべきとされた「他国と共同開発・生産した装備品の第三国移転」および見直すべきとされた「救難、輸送、警戒、監視及び掃海のいわゆる5類型の見直し」についての改正は今回見送られた。

 特に、「他国と共同開発・生産した装備品の第三国移転」は、英国・イタリアと共同開発を進める次期戦闘機を念頭に置いたものであり、2023年12月14日に予定されていた日英伊3か国の防衛相会談までには少なくとも与党として、第三国に輸出することを可能と結論づけているという姿勢を示したい狙いがあったとされる。

 なぜ、改正ができなかったのか。それは、代表の山口那津男氏や、幹事長の石井啓一氏などの公明党幹部が相次ぎ慎重な姿勢を示したためであるとされる。

 戦闘機を外国に輸出することは、日本の安全保障政策にとって大きな転換となる。公明党の言うように慎重な検討がなされて当然であると筆者は思う。

 ところで、筆者は、過去の記事でたびたび「防衛装備移転三原則等」の撤廃を主張している。

 その理由については、「一国平和主義からの脱却」と「防衛産業の育成」である。これらについて最近の政府の取組等を加えて本稿で再度述べて見たい。

 以下、初めに「防衛装備移転三原則等」の見直しの経緯について述べる。次に「防衛装備移転三原則等」の改正の概要について述べる。最後に「提言:防衛装備移転三原則等の撤廃」について述べる。