海賊対策のために派遣されている自衛隊の航空機と自衛官(2023年5月撮影、海上自衛隊のサイトより)

 2023年11月26日、イエメン沖のアデン湾で、イスラエルのオフェル一族が所有する国際船舶管理会社ゾディアック・マリタイムが管理するタンカーが武装勢力に乗っ取られた。

 その後、緊急の信号を受けた米海軍の駆逐艦(メイソン)が介入し、タンカーは解放された。

 これについて、米軍は声明を発表し、武装勢力の5人は小型船で逃げたものの、最終的には投降したとしている。

 その前後にイエメン内陸部から周辺海域に向けて弾道ミサイルが発射され、メイソンから10カイリ(約18.5キロ)以上離れた場所に2発着弾したが、護衛艦や米艦艇に被害はなかった。

 防衛省関係者によると、英国の会社が運航するリベリア船籍のタンカー「セントラル・パーク」がイエメン沖のアデン湾を航行していたところ、何者かに乗っ取られたという情報がアデン湾で海賊対処にあたっている海上自衛隊に寄せられた。

 情報を受けて護衛艦「あけぼの」と、「P3C」哨戒機1機が現場に向かい警戒監視や情報収集にあたったほか、米海軍などに情報提供を行った。

 海賊対処法に基づいて派遣された自衛隊の部隊は、警戒監視や民間船舶の護衛のほかに、警告射撃などの武器の使用が認められている。

 しかし、今回は自衛隊による武器使用はなかった。

 日本は2009年からソマリア沖・アデン湾で海賊対処にあたっており、現在は護衛艦1隻と哨戒機1機が派遣されている。

 このうち護衛艦はアデン湾で警戒監視を行ったり民間船舶の護衛にあたったりしていて、2022年度末までに護衛した船舶は合計4068隻に上る。

 哨戒機は上空から警戒監視にあたり、他国軍の艦艇や民間船舶に情報提供を行っていて、2022年度末までに1万5972回の情報提供を行った。

 内閣官房が公表している「海賊対処レポート」によると、民間船舶が海賊などに乗っ取られたり、攻撃を受けたりしたという情報を受けて自衛隊が現場に向かって監視などにあたった事例は、少なくとも3件ある。

 さて、上記したように、自衛隊が海賊対処している海域には弾道ミサイルが撃ち込まれている。この海域は、戦闘海域ではないのか。

 かつて、小泉純一郎首相(当時)は、「自衛隊を戦闘地域には派遣しないし、戦闘行為には参加させません」と国会答弁をしている。

 筆者は、海賊対処で派遣された護衛艦が弾道ミサイルにより被害を受けるのではないかと心配している。

 これが、杞憂で終わることを願っている。

 ちなみに、護衛艦「あけぼの」はイージス艦ではなく、弾道ミサイル対処能力を有していない。

 たとえイージス艦であっても日本独自の厳しい「武器使用規定」により弾道ミサイルを打ち落とすことはできない。

 本稿は、日本が海外に派遣する自衛隊の武器使用規定の問題点について述べて見たい。併せて、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処の概要についても述べる。

 初めに、ソマリ沖・アデン湾の海賊問題について述べ、次に国際社会の海賊対処への取り組みについて述べ、次に我が国の海賊対処への取り組みについて述べ、最後に、これまでの海外派遣部隊の法的根拠と武器使用規定の問題点について述べる。