韓国軍の「KC-330」機でイスラエルから退避しソウルに到着した人々(10月14日、提供:韓国国防省/ZUMA Press/アフロ)

 2023年10月7日早朝、イスラエルはパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによる前代未聞の越境攻撃を受けた。

 ガザ地区との境界沿いに住む民間人や兵士双方を含むイスラエル人や音楽祭参加者など1000人以上が殺害され、約100人以上がガザ地区へ拉致された。

 ハマスの司令官は声明で、作戦開始からの20分間で5000発のロケット弾を打ち込んだと主張した。イスラエル側は2000発以上としている。

 中部テルアビブなど広い範囲が標的となった。今回のハマスによる奇襲攻撃はイスラエルと世界に大きな衝撃を与えた。

 イスラエルおよびヨルダン川西岸・ガザ地区の在留邦人は永住者701人、長期滞在者509人の合計1210人である(20224年10月1日現在、出典:外務省海外在留邦人数調査統計令和5年5月19日)。

 幸い、現地の在留邦人の犠牲はゼロであるが(10月24日現在)、日本への帰国またはイスラエルからの脱出を希望する邦人の退避が政府の喫緊の課題となった。

 外務省は外務省設置法に基づき、緊急事態発生時における在外邦人の退避、平時からの在留邦人の住所等の把握、緊急事態に備えた連絡体制の整備等各種の安全確保対策を実施している。

 そして、外国における災害や騒乱等により、その国に所在する邦人を安全な地域に退避させる必要が生じた場合、外務省は、まずは商用定期便が利用可能なうちに退避するよう勧告する。

 商用定期便での出国が困難、あるいはそれだけでは不十分な状況に至った場合には、民間チャーター機の活用、当該国政府や友好国からの邦人退避のための協力の確保、自衛隊の輸送手段の使用など、最も迅速かつ安全な手段を選択することとされている。

 さて、松野博一官房長官は10月13日午前の記者会見で、イスラエルからの出国を希望する在留邦人のため、チャーター機を運航すると発表し、14日にイスラエルのテルアビブからアラブ首長国連邦のドバイに向かう1便を運航するとした。

 松野氏はイスラエルの現地情勢について、「商用便は運航されているものの、航空会社は通常よりも運航便数を制限しており、情勢は非常に流動的だ」と指摘。

 出国についての意向調査を踏まえ、「邦人の出国を支援し、その安全確保に万全を期す観点からチャーター機を手配することとした」と述べた。

 ところが、10月14日早朝にテルアビブを出発した韓国軍輸送機に日本人51人が搭乗し、14日午後10時45分にソウル空港に到着した。

 日本政府による輸送機のイスラエル派遣が1日早ければ、51人の日本人は自国政府が手配した輸送機で帰国できたのである。

 2021年8月に実施されたアフガニスタン退避作戦では、内外のメディアは厳しい評価をした。

 韓国紙「中央日報」は、当初は500人の退避を想定しながら実際は10人程度だったとして「日本、カブールの恥辱」との見出しで伝えていた。

 また、日本のメディアも日本政府の「退避作戦」は失敗に終わったなどと厳しい評価をした。

(詳細は拙稿「韓国に「恥辱」と呼ばれたアフガン退避作戦が示す課題(2021.9.15)」を参照されたい)

 筆者は当該記事で、「アフガン退避作戦」が残した教訓として「自衛隊機派遣の決断の遅れ」を指摘した。

 本稿では、イスラエル退避作戦は継続中であるが、これまでの退避作戦の問題点として筆者が考える、

①輸送機の派遣に係る政府の決断の遅れ

②チャーター機の有料化

③自衛隊派遣の発令手続の不備の3点ついて私見を述べて見たい。

 以下、初めにイスラエル退避作戦に関連する事象について述べ、次にアフガン退避作戦の教訓を反映した自衛隊法84条の4の改正について述べ、次に、日本および韓国が実施したイスラエル退避作戦について述べ、最後に、今回のイスラエル退避作戦の問題点について述べる。