日本は世界で唯一の被爆国であり大規模な原発事故にも遭った。しかし、原発から逃れられない

 日本はなぜ、原発をゼロにできないのか。理由は2つある。

 一つは米国の反対である。もう一つは日本の安全保障上の要請である。

 米国の反対については、8月31日のTBSの報道1930「日本が脱原発に踏み切れないワケ」の中で、米国が日本の原発ゼロに反対した事例を解説していた。その内容は後述する。

 日本の安全保障上の要請とは、原発のもつ抑止機能である。

 原発は単なる電力生産のための工場ではないと言われる。濃縮ウランを核反応させ、プルトニウムという核兵器の原料を生成する原発は、潜在的核兵器製造能力の淵源である。

 すなわち核兵器を製造する潜在的能力を持っていると思わせることが抑止力にもなるのである。

 言い換えれば、潜在的侵略国が、日本が短期間に核兵器を製造・保有できることを考慮して、日本への侵略を断念することである。

 ところで、戦後を代表する政治家、中曽根康弘元首相は日本の原子力の生みの親としても知られる。

 中曽根氏は1955年8月に、国連第1回原子力平和利用国際会議に出席した後、鳩山一郎首相への手紙の中で次のように述べている。

「国際政治の軸が文明的共存に移り、原子炉を有するや否や、即ち原子力の発達度合が国際的地位の象徴となってきたことが今度の会議ではっきりした」

「日本が国際的地位を回復するのには、中立的である、この科学の発達に割り込むのが最も他国を刺激せず、早い道である」

「日本が将来原子力国際機関の理事国にでもなれば、国際的地位回復の重要な足掛かりとなる」(出典:中曽根康弘回顧録『政治と人生』p171-172)

 当時、中曽根氏は、原発を国際的地位の象徴と見ていたことは興味深い。中曽根氏が原発を抑止力として見ていたかどうかは筆者には分からない。

 さて、今、日本の核燃料サイクルは、東日本大震災における原発事故(2011年)に伴う原発の廃止や稼働停止、高速増殖炉もんじゅの廃止(2016年)、再処理工場の建設の遅れなどにより破綻の瀬戸際にある。

 最も深刻なのが、高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないことである。このままでは、原発ゼロを目指す国民運動が盛り上がる可能性がある。

 そのような中、岸田政権は原子力の積極利用に踏み出した。

 2022年8月24日に開催された第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議にリモートで出席した岸田文雄首相は、締め括りの挨拶において、原子力に関し以下の3項目を明言した。

①原子力規制委員会による設置許可審査を経たものの、稼働していない7基の原子力発電プラントの再稼働へ向け、国が前面に立つ。

②既設原子力発電プラントを最大限活用するため、稼働期間の延長を検討する。

③新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発/建設を検討する。

 この岸田氏の原子力の積極的利用策は、米国の原発ゼロへの反対と我が国の国家安全保障上の要請を認識してのことであろうと筆者は見ている。

 さて、本稿は、日本が原発をゼロにできない2つの理由について筆者の個人的な考えを述べたものである。

 初めに、報道1930「日本が脱原発に踏み切れないワケ」の放送内容について述べる。次に、核の脅威に対する対応について述べる。