オデーサの穀物倉庫にロシアがミサイル攻撃(7月21日、提供:Press Service of the the Operational Command South of the Ukrainian Armed Forces/ロイター/アフロ)

 ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する手続きを定めたロシアとウクライナ、トルコ、国連の間の「穀物合意」(2022年7月)を巡り、ペスコフ露大統領報道官は合意の延長期限であるこの7月17日、ロシアが合意から一時的に離脱すると発表した。

 ロシアは自身の要求が満たされた場合、合意に復帰するとしているが、合意の失効で穀物の流通量が減少し、世界的な食料価格高騰が加速する恐れがある。

 ロシアは従来、合意延長に応じる条件として、露農業銀行を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」に再接続することや対露制裁に伴う物流問題の解消などを提示している。

 ペスコフ氏は「これらは履行されていない」と述べた。

 ロシアは合意からの離脱で国際社会を揺さぶり、自身の要求を聞き入れさせる思惑だとみられている。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月17日、ロシアが合意から離脱しても「恐れることはない」と述べ、黒海経由での輸出を継続する用意があると強調した。

 ただ、トルコがロシアの意向を無視して協力することなどが必要で、実現できるかは不透明である。

 ロシアは7月17日の輸出合意の失効後、20日までに3日連続で南部の主要港をミサイルなどで攻撃した。

 ロシア国防省は合意の停止に伴い、7月20日以降に黒海を通じてウクライナに入港するすべての船舶を「軍事物資の輸送に関わっているとみなす」と宣言。21日には黒海で軍事演習を行うなど、ウクライナや欧米への威嚇を強めている。

 国連の安全保障理事会は7月21日、緊急会合を開催した。

 会合では、ロシアの輸出合意からの離脱が世界的な食料危機を招く可能性があるなどとして、各国から非難の声が上がった。

 リンダ・トーマスグリーンフィールド米国連大使は、「ロシアは黒海を脅迫手段として利用しているだけだ。政治的な駆け引きをしており、人類を人質に取っている」と述べた。

 北大西洋条約機構(NATO)は7月26日、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意から離脱したロシアがウクライナ南部の港湾都市や穀物貯蔵施設などに攻撃を続けていることは「黒海の安定にとって大きなリスク」と批判し、黒海で対潜哨戒機や無人機を使った監視・偵察活動を強化する方針を明らかにした。

 また、イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、黒海は「NATOにとって戦略的に重要」だとした上で「いかなる侵略からも加盟国の領土の隅々まで防衛する用意がある」とロシアをけん制した。

 さて、筆者はロシアの国際法を無視した横暴な振る舞いに対応するために、次の3つの選択肢を提言したい。

 1つ目は、国連は「平和のための結集(Uniting for peace)」決議(決議377A)に基づき、第11期特別会期(Emergency Special Session:ESS)の総会を開催し、穀物輸送船を護衛するための国連軍を黒海に派遣する決議案を採択すべきであると考える。

 ロシアは、黒海の西部と南東部の公海上は「時限的に船舶航行の危険地帯とされる」と勝手に宣言しているが、これは国際法違反である。

 国連海洋法条約第87条には、公海はすべての国に開放され、すべての国が公海の自由等を享受する、とある。

 2つ目は、イラン・イラク戦争におけるタンカーの航路安全確保のための活動に倣った黒海における穀物輸送船の安全確保のための活動である。

 イラン・イラク戦争では、米国はクェートからの要請に基づき、クウェートタンカーを米国船籍へ変更した上で護衛する「アーネスト・ウィル作戦」を行った。

 3つ目は、NATOが地中海に配備しているNATO常設海軍(Standing NATO Maritime Group 2)を黒海に派遣し、穀物輸送船を護衛する方法である。

 万一ロシアがNATO軍艦艇を攻撃してきた時は、NATOとロシアとの武力衝突に発展する恐れがある。

 NATOには相当の覚悟が必要となるであろう。

 以下、初めに今回ロシアが延長しなかった黒海穀物イニシアティブについて述べる。次に、3つの選択肢について述べる。

 まず、ESSの総会決議による黒海への国連軍の派遣について述べる。次に、有志国による黒海における穀物輸送船の航路安全確保活動について述べる。

 最後にNATO常設海軍による黒海における穀物輸送船の護衛作戦について述べる。