2階にあるホテル「マダムズ・ロッジ」ロビーへと続く階段(写真:筆者撮影)
  • ポルトガルの首都リスボンで、1960年代の「娼館」を再現した観光施設が人気を博している。2011年にバーとしてオープン、今年5月にホテルを開業した。
  • かつては船乗り相手の売春宿で栄えた街だったが、その後は衰退。「黒歴史」をあえて打ち出し、観光客に人気を博している。
  • 実在した娼婦をリサーチし客室をリアルに再現するなど、淫靡(いんび)な演出を徹底。ポルトガルで歴史的な建物の再開発を手掛ける企業グループによる経営で、寂れゆく地域の活性化に一役買っている。(JBpress)
テージョ川河畔のリスボンの夕暮れ(写真:筆者撮影)

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 日本でも地域や建物の再開発をする際、その歴史的背景を生かすことがある。たとえば倉庫街や工場はレンガやむき出しの鉄骨といった武骨さをそのまま残し、洗練された都市部との差別化を図ったりする。

 ただ、「娼婦街」や「娼館」の場合はどうだろう? ひた隠しにしたい「黒歴史」と考えられることが多いのではないだろうか。

 そんな“常識”にとらわれず、黒歴史をあえて個性として売り出すことで成功している街が、ポルトガルの首都リスボンにある。そのユニークな試みを追ってみた。

かつては世界の船乗り相手に賑わった歓楽街

 ヨーロッパの南西端にあるポルトガルは、お隣のスペインと共に大航海時代を牽引(けんいん)してきた海洋国家。首都リスボンは世界中の船乗りたちが寄港する国際都市として発展してきた。

 なかでも船着き場があったテージョ川河口のカイス・ド・ソドレ(Cais do Sodré)地区は、異国情緒豊かでボヘミアンな気風に満ちていた。ずらりと並ぶヨーロッパの首都の名を冠したバーや娼館、賭場には、長くつらい航海の憂さ晴らしをする船乗りたちはもちろん、ブルジョア(資本家)、作家、ポルトガルの大衆音楽ファドの歌い手、スパイ、娼婦などが夜な夜な集ったそうだ。

 この歓楽街は、1933年から1974年まで続いた保守的な独裁政権、特に1963年に施行された売春防止法によりすっかり衰退し、一度は「過去」として葬り去られていた。

天井が鏡張りの「ペンサン・アモール」のバーエリア(写真:筆者撮影)

 ところが、15年ほど前からカイス・ド・ソドレは再び蠱惑(こわく)的なナイトスポットとして活気を取り戻している。そのきっかけをつくったのが、かつての娼館を利用したバー「ペンサン・アモール(Pensão Amor。「愛の館」の意味)」だ*1。 今年は更にバーの上階にユニークなホテルをオープンした。

*1Pensão Amor Madam’s Lodge