ペロニズムが組み込まれたアルゼンチンの不幸
アルゼンチンにとって不幸だったことは、ペロニスタによる分配重視の政策運営が、同国の社会に深く組み込まれてしまったことにあると言えよう。ペロニスタ政権によるバラマキ政策こそ、アルゼンチン経済の長期にわたる停滞と混乱の主因だ。しかし、それを打破しようと経済の改革に努めると、新たな強い痛みを国民に強いることになる。
痛みに配慮すると改革は進まないが、小手先の改革だと経済の活力が回復しない。この狭間でマクリ元大統領は揺れ続け、確たる成果をもたらすことなく、ペロニスタのフェルナンデス現大統領に敗北した。アルゼンチンの社会に深く組み込まれたペロニズムから脱することは容易ではなく、それにはかなり強い力を要することは明らかである。
変革を望むアルゼンチンの有権者は、ペロニズムの打破をミレイ新大統領に託したのだろう。公式なドル化にまで踏み込むことができれば、財政や金融政策の自立性を失うことになるが、一方でアルゼンチン経済に長期にわたる停滞と混乱をもたらしてきたペロニスタによる分配重視の政策運営とも決別することができるためだ。
通常、社会や経済の変革は、その変革に伴う痛みに対応すべく、漸進的かつ改良的に行われることが望ましい。しかしながら、アルゼンチンのように行き着くところまで行き着いてしまえば、毒を以て毒を制するような変化でもない限り、社会や経済の変革は進まないのだろう。これは、国民に相当の強い痛みを強いる結果となる。
言い換えると、意気揚々とアルゼンチン経済の変革を訴えるミレイ新大統領が、本当に公式なドル化や大胆な行財政改革を断行できるか、定かではないということだ。国民が強い痛みに耐えきれず、結局はペロニスタ政権に回帰する展開も考えられる。それにミレイ新大統領が、有権者の離反を恐れて分配重視に路線を転じる可能性もある。