成長なき分配重視に苦しむアルゼンチン

 ミレイ氏が8月の予備選で勝利して以降、公式なドル化の可能性が意識され、ペソの市中レートは大幅に下落した(図表)。公式なドル化に踏み込むなら早期にそのスケジュール観を示さない限り、国民はペソを闇で売り米ドルの確保に勤しむだけだろう。就任して早々、ミレイ新大統領は通貨政策に対する明確な姿勢を表明することになるはずだ。

【図表 アルゼンチン・ペソの対ドル相場】

(出所)アルゼンチン中銀およびBule Dollarウェブサイト

 有権者の支持を背景に、ミレイ新大統領は公式なドル化を実施すると発表すると考えられる。その場合、長期的には社会経済の安定が図られても、短期的にはその混乱に拍車がかかることになる。カレンシーボード制のような固定相場制度を再び導入する可能性もゼロではないが、結局はそれを維持できず放棄することになるのではないだろうか。

 この分配重視の流れは日本も含めた世界的なトレンドとなっている。特に2021年以降の高インフレに伴う所得の目減りを受けて、各国の有権者が分配への要求を強めていることが、その最大の理由である。ただ、高インフレ下で分配を強めれば、かえって高インフレが定着することにつながるため、経済運営の在り方としては間違いだ。

 いずれにせよ、経済は成長があってこその分配である。アルゼンチン経済の長期の停滞と混乱は、ペロニスタによる過度に分配を重視した政策運営の結果である。そうした政策運営がその国の社会経済に深く組み込まれたとき、その均衡を打破することは極めて困難だし、それには極めて強い痛みを伴うことを、アルゼンチンの経験はよく示している。

 つまるところ、課題の解決を先送りすればするほど、大きな痛みを負わない限り、事態の改善は望み難くなるということである。これは当然、日本にとっても当てはまる命題である。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です