筆者が取材を始めた時には、ちょうどSさんと音楽学校との間で係争が始まっていた。調べた事実を元に記事にすることも不可能ではなかったが、学校と争うSさん側が不利になるようなことにはしたくなかったので、この時はひとまず記事化を諦め、取材を継続することにした。

法廷闘争へ

 さて、退学処分を受けたSさん側は「退学処分は無効である」として神戸地裁に対して仮処分を申し立て、これが2009年1月6日に認められた。

 ところが学校側はそれからすぐに2度目の退学処分を決定し、Sさん側に通知してきたのである。これも無効であるとSさん側は裁判所に訴え、3月に再度「無効」の仮処分が決定した。

 すると学校側はこの決定に対し不服の申し立てを大阪高裁に行う。だが、やはり裁判所は学校側の主張を容れなかった。

 その執拗な行動をみると、もはや学校側はSさんの退学処分の事柄の正否はどうでもよく、Sさんを退学させたいだけのようだった。その後も取材を続けていた筆者も、世間一般の常識が宝塚では通らないのかと改めて驚くばかりだった。

 その後2009年11月、Sさん側は学校を相手に、Sさんの地位保全と1000万円の損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こす。ついに裁判で、Sさんに対するいじめの実態が明らかにされることになったのだ。

 このころになると、Sさんに対するいじめ問題は、一部のメディアや熱心な宝塚ファンにも知られることとなる。週刊誌の記事でも取り上げられた。