笠置シヅ子が「東京ブギウギ」などを歌った、東京・有楽町の日劇。1981年2月15日、48年の歴史にピリオドを打つ「サヨナラ公演」。写真/共同通信フォト

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

2023年10月に始まったNHK連続テレビ小説『ブギウギ』。ヒロインである花田鈴子のモデルである笠置シヅ子は、戦後「ブギの女王」として一世を風靡した歌手として知られている。彼女はどんな人生を歩んできたのか?(JBpress)

歌って踊れる、唯一無二の魅力

 終戦直後、並木路子の『リンゴの唄』が焼け跡に流れましたが、『東京ブギウギ』が昭和23年1月にレコード発売されるまでのヒット曲といえば、『麗人の歌』『悲しき竹笛』(どちらも、作曲・古賀政男)など短調で内向きの曲が多く、戦争が終わった解放感をダイレクトに歌ってくれるような歌を、多くの国民は待ち望んでいたのかもしれません。『東京ブギウギ』の爆発的な人気がそれを証明しているようです。

 笠置と服部、関西人同士だからこそ生み出せた「和製ブギウギ」作品は、当時の流行歌とは次の7つの点で明らかに一線を画していました。

①多くの言葉をリズミカルに早口で歌い上げる疾走感

②終戦によって解禁されたジャズを中心とした米国音楽を踏襲した解放感

③戦前には耳にすることがあまりなかった、ジャズ風スキャット多用のハイカラ感

④七五調でない会話体歌詞を地声で歌うアドリブ感

⑤客席に向かって「ヘイ!」と呼びかける、観客との一体感

⑥ウキウキ、ズキズキなど、韻を踏んだオノマトペ(擬態語、擬音語)の臨場感

⑦服部が作詞作曲した『買物ブギー』で聞かれるような関西弁による現実感

 これらがミックスされ、どのブギウギ物もユーモア、スピード感、ストーリー性に富み、当時の芸能界では唯一無二ともいえる楽曲シリーズとして輝きました。笠置と服部、まさに余人をもって代えがたい名コンビによる名作群です。

 特に最後に記した『買物ブギー』は是非とも聴いていただきたい「和製ブギ」の傑作です。この曲の魅力は機関銃のごとく放たれるコテコテの大阪弁の魅力でもあり、楽曲的にも会話体をここまでリズミカルに仕上げた例としては最高峰ではないかと思っています。作詞作曲の二刀流をこなし、シャレや落語を愛した服部でしかできない仕事でしょう。

 笠置は視覚的な分野においても見る者たちに笑顔をもたらす功績を残しています。

 3センチほどの付けまつげをばたつかせ、大きな口を開けて叫ぶように歌い、スカートを気にすることなく足を上げて踊り、舞台狭しとサンダルで駆け回り、客席に向かって掛け声をかけ反応を楽しむ、それらはすべて見ている者に一緒に踊って歌って楽しみたくなるような快い躍動感を与えてくれました。

 現在ではごく当たり前なパフォーマンスですが、当時の歌手としては珍しく、松竹楽劇部出身の面目躍如といったところですね。