(立花 志音:在韓ライター)
「実は私ね、1年ぐらい歩けなかったんだけど、最近ようやく歩けるようになったのよね」
今年の春に信じられないセリフを耳にした。発言の主は、日本にいる実家の母である。
コロナが始まって以降の4年間、日本の実家に行くことはなくても、毎月のようにビデオ通話はしていた。その中で、母も父も、そのようなそぶりを見せることはなかった。
「えっ!?どういうこと?」
耳を疑うとかいうよりも、母が何を言っているのか、全く分からなかった。
去年の初め頃に腰を痛め、歩けなくなった。原因がつかめなかったけれど、今年に入ってから、きちんと傷病名が診断されて治療をしている。そういう話だった。
この話を聞いてから何カ月か、筆者は悶々とした日々を送っていた。毎日、子育てと家事に追われ、韓国の義父母の誕生日や主人の弟夫婦を交えた家族の集まりなど、主婦業と嫁業の一切を仕切っている自分の日常を振り返った。
これは愚痴ではなく、笑い話として聞いていただきたいのだが、主人の母が今年70歳を迎えた。
旧正月に家族が集まっている時から、「今年は70歳になる」と大声でみんなに聞こえるように話していた。要は韓国式古稀祝いをやってくれということである。ついでにお小遣いも弾んでくれという話だろう。
最近は韓国人同士でも、姑が嫁にこんなことを言ったらバッシングの対象になるらしいが、我が家ではこのぐらいのことであれば笑いながら、夫の弟夫婦と話し合って予算編成する。
義母の誕生日だった5月には食事会を開いた。来週から、義母は中学の同級生たちとベトナムのダナンに行くということだ。ベトナムは、最近の韓国人に人気の旅行先だ。
そういえば、義母の60歳の誕生日の年には北海道に行ったことを思い出す。
息子たちからお祝いされ、お小遣いももらい、旅行のお金も出してもらう。そうして旅行に行けば、同級生同士で子供たちの自慢大会になるのだろう。
比較が大好きな韓国人の「あるある」である。一見、摩擦が起きそうな話ではあるが、文化だと思えばなんてことはない。