しかも、オリオールズは決して貧乏な球団ではない。イライアス就任前の2017年には年俸総額1億6400万ドル(246億円)余りを負担しており、当時の水準に戻すと考えただけでもビッグネームのFA選手を3人は獲得可能だ。こうして優勝に向けた最後のピースを揃えてワールドチャンピオンを狙うのが定石である。
口を出すのにカネは出し渋るオーナー
翻ってエンゼルスはどうか。まず2011年にトラウトがデビューして以来、主力になるような若手を育てられていない。にもかかわらず定期的に(無計画に)大物選手と大型契約を結んできた。常にそれなりの戦力を維持しているため悪くても90敗程度で踏ん張るが、その結果としてドラフトでトップ5指名権を得ることもなかった。漫然と優勝を狙い続けた結果、常に中途半端な位置にい続けたのがこの10年間のエンゼルスだったのだ。
その悪いところが凝縮されたのがこの夏の動きだった。8月以降のスケジュールが厳しいことは分かっていたのに、ポストシーズン進出へ当落線上の立ち位置から勝負を決断。将来を支えるはずの若手選手を手放して戦力補強をしたが連敗を重ね、大谷も故障。結局1カ月も経ずしてトレードで獲得した選手を手放すことになった。勝つ準備ができていないのに勝負に出て、目先の勝利も将来の勝利も失ったのだ。
今季開幕時点の年俸総額は30球団中6位の2億1200万ドル(318億円)余り。チーム最高年俸のアンソニー・レンドーン三塁手は相次ぐ故障でこの3年間ほとんど仕事をしていないが、2026年まで同額の年俸を払うことが確定している。ここ数年故障が増えてきた32歳のトラウトも2030年まで高額の長期契約を結んでいて、2026年までは2人合わせて毎年約7500万ドル(112億5000万円)を払うことが決まっている。こうした契約も足かせになっているため、少なくともこの先3年間はエンゼルスが快進撃をする可能性は低いと考えられる。
ただ、これを現GMのペリー・ミナシアンだけの責任とするのは可哀そうだ。むしろ原因は、我が強い割にケチな面がある球団オーナーのアート・モレノにある。選手獲得に口を出すが、戦力を整えるために我慢の期間を作るのも嫌。かといってヤンキース(約2億7700万ドル=約415億5000万円)やメッツ(約3億3000万ドル=約495億円)のような莫大な年俸総額まで予算を増やすこともしない。これでは強い球団を作るのは難しいし、能力の高いフロント人材は集まらない。
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