先が見通せない有人ドローン「ブレイクスルー技術」の登場
困難なポイントはいくつもある。最大の難関は安全性だ。ドローンはヘリコプターと異なり、万が一動力が停止したときに風圧でローターを回しながら不時着するオートローテーションができないので、一部のローターが停止しても安全に緊急着陸することができるよう設計しなければならない。
今年8月には大阪万博に就航を予定しているイギリスのバーティカル・エアロスペース社の試作機がその試験中に墜落事故を起こしたことで、難しさがあらためて浮き彫りになった。
困難なのはそれだけではない。仮に安全性が確立されたとして、今度は性能不足が問題となってくる。
スズキブースに展示されていたスカイドライブ社のSD-05型機は操縦士1名、パセンジャー2名の定員3名という仕様の機体だが、目標航続距離はわずか15km。他のバッテリー型ドローンも航続距離はきわめて短い。ジョビーやバーティカルは100マイル以上の航続を謳っているが、いずれも最大重量に余裕のある有翼機だ。

ドローンタイプの航続距離が極端に短いのは、製造会社の技術力の問題ではなく、そもそも機体をローターの揚力で浮かせ続けるのにはそれだけ莫大なエネルギーが必要だからだ。
2021年、A.L.I.テクノロジーズが一人乗りのドローン型ホバーバイク「XTURISMO」の飛行デモを行い、その様子は映像ニュースで広く報じられた。浮上する時、最高出力170kW(231馬力)の発電用メインエンジンの轟音がサーキット中にこだまする様子を見たことがある人も多いことだろう。
スバルのエアモビリティの開発を手がけるエンジニアの一人は、「浮上、さらに高度を上げる時に必要とされるエネルギーは、まさにあの映像が示す通りのもの。また、それよりは少なくて済むものの高度を維持するにも膨大なエネルギーが必要です」と、実情を語る。
有人ドローンのスペックを満足のいくものにするには、バッテリーの性能向上がすべてと言っても過言ではない。それも、今日話題になっている全個体電池程度ではお話にならず、バッテリーの重量エネルギー密度が現在の5倍といったオーダーでの進化が求められている。言い換えれば、現時点でまだ存在していない技術、発見されていない合成材料などが必要とされているのだ。
「ロードマップが見えている積み重ね技術と異なり、ブレイクスルー技術はいつ登場するかが見通せません。遠い未来まで見つからないかもしれませんが、意外に早く見つかる可能性もあります。今、当社がエアモビリティの開発を継続的にやっているのは、ブレイクスルーが起こったときに優位に立つためです」(前出のスバル関係者)