次に、政治では財力が物を言うため、富裕層はハックの常態化もお手のものだ。つまり、権力を駆使してハックを法的に認めさせることができる。2009年にゼネラルモーターズ(GM)が倒産したとき、旧GMの株は無価値になり、新GMが新たに株を発行して資金を調達した。経営陣と裕福な投資家は利益を得たが、一般の株主はまんまと出し抜かれた。その多くは従業員や元従業員だ。儲けの大きいハックだったが、恩恵があったのはすでに裕福な層だけだったのである。

 ここで分かるのは、またしても、富裕層がハッキングを得意とするということだ。人でも組織でも、リソースが集中しているほどハックを発見して実行するのがうまい。そして、そのハックを合法化して常態化するのも巧みだ。

ハックを常態化させるのは権力者の得意技

 ハッキングは、権力を行使する方法のひとつだ。

 力のない者がハッキングするのは、目の前の権力構造をくつがえすためだ。お役所仕事の網をくぐるため、あるいは個人的な利益を得るためである。世の人の大半は、自分たちの暮らしに影響するグローバルなシステムについて何の発言権ももたない。だから、やむを得ずシステムをハッキングする。至るところで、人は厄介の原因になるシステムをハッキングする。こうしたハッキングは、行政からの負担となるような、エリートや国によるハックに対する当然の反応ともいえるのだ。

 そういうと、ハッキングとは以前からの権力に対して優位に立とうとして敗者の側がしかけるものと考えがちだ。だが、権力者が自らの優位をさらに強化しようとして手がけるほうが、実はずっと多い。

 アメリカの銀行は専門の法務チームを組んでドッド・フランク法の抜け穴を突き止め、その隙を突いたうえ、3年間にわたって多額をつぎ込んでロビー活動を展開した末に、それを常態化した。巨大な規模と財力のおかげで、銀行はこうした脆弱性を狙えたのであり、その財力で手にした権力のおかげで抜け穴は合法化したのである。

 ハッキングに力関係(パワーダイナミクス)があるように、ハックを常態化する段階にも力関係がある。権力者(たいていは富裕層とイコールだ)のほうが、自分たちのハックを長続きさせる態勢が整っていて、後ろ暗い行為を常態の一部へと移行するのが得意だ。ヘッジファンドやベンチャーキャピタル資金など、ありとあらゆる節税対策は、そう考えることができる。

 これには、構造的な理由がある。第一に、税制の抜け穴を巧妙に利用するには、好待遇の弁護士と会計士が必要になる。第二に、裕福な人や組織ほど隠しておきたい資金が多いので、抜け穴を見つけて悪用する動機が大きい。第三に、税制の抜け穴は法的にグレーな部分で運用されることが多い。財力で劣る層には、税務当局に対抗するだけの資金力がないのである。そして第四に、運用がゆるいと富裕層の租税回避が責任を問われにくい。