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「ハック」「ハッキング」とは、経済、政治、社会などさまざまなシステムに対して、ルールの抜け穴を利用して自らの有利になるようにすることだ。ハッキングと聞いて思い浮かぶのは、ハッカー集団「アノニマス」のような反体制的な行動だろう。だが、富裕層が、金銭や権力のためにハッキングをしかけるほうが、実は一般的なのである。(JBpress)

※本稿は『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』(ブルース・シュナイアー著、高橋聡訳、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです

 本書では、さまざまなシステムについて、それがどのように破綻するか、どうすれば強靱になるかを理解しようとするときに、ハッキング的な考え方が有効だと伝えることをめざしている。

「ハック」とは、想定を超えた巧妙なやり方でシステムを利用して、システムの規則や規範の裏をかき、そのシステムの影響を受ける他者に犠牲を強いることだ。

富裕層が金融システムをハッキングする

 プロスポーツの世界では、資本力のあるチームが不当に有利にならないように、選手の報酬に上限を設けることでリーグの戦力バランスを保っている。原則としては、選手に支払う最大総額に全チームが合意する。

 この合意がハッキングされることは言うまでもない。スポーツの種類と具体的なルールによって違うが、各チームとも報奨金を契約金の金額のなかに隠したり、支払い額を複数年にわたって分散したりしている。チームのスポンサーや関連会社で選手を起用する、選手の配偶者を雇用する、関連するマイナーリーグのチーム予算に選手の給料をまぎれ込ませるといった手もある。プロスポーツ界にはなにかと金銭がからんでくるもので、チームはルールの裏をかくためなら何でもするのである。

 銀行や金融システムに対するハックは、富裕層がさらに富を蓄えようとして手がける場合が大半だ。コンピューターに対するいわゆるハッキングとは事情がだいぶ違う。

 ハッキングと聞いてすぐに思い浮かぶのは、反体制的な行動、つまり行く手をさえぎる権力機構に対して弱者がしかけるものだろう。ハッカー集団「アノニマス」は、その手のハッキングの代表例として知られている。だが、富裕層が、金銭にしろ権力にしろ自らの優位のためにハッキングをしかけるほうが、実は一般的なのである。

 富裕層には、ハックを見つけやすく利用しやすいという有利な点がある。まず、自分たちがハッカーとして実際に優れている必要がない。ハッキングを成しとげる、つまり脆弱性を見つけて、エクスプロイト(脆弱性を利用するしくみ)を作成し、ハックを実行するのに必要な専門知識をほかから借用できるくらい資金が潤沢だからである。