2023年ノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン氏(10月9日、写真:ロイター/アフロ)

 10月25日、最高裁判所は、すでに国会が承認した「性同一性障害特例法」の定める「戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失わせる手術を必要とする」という要件が「違憲」であるとの判断を下しました(裁判長:戸倉三郎最高裁長官)。

 この判断と、どうしても見比べてしまったのが10月9日、スウェーデン王立アカデミーが発表した、米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授(77)への今年のノーベル経済学賞の授与です。

 今年のノーベル経済学賞は、「女性が子供を持つこと」が「男女の賃金格差」の主要な原因の一つになるという研究成果に対して授与されました。

 これとちょうど入れ子のような位置にある、日本の最高裁が下した「トランスジェンダーの要件として生殖能力を失わせるのは違憲」という判断から、検討してみたいと思います。

性転換と生殖能力:矛盾か、無矛盾か?

「生殖能力を失わせる手術を必要とする」という要件が「違憲」という判断は、最高裁判所の判事15人全員一致で下しています。

 このように最高裁が法令を「違憲」としたのは12件目になります。

 最高裁が法令を「違憲」と判断すると、内容は見直さざるを得なくなります。

 最初の違憲法令判断は、両親や祖父母などに対する「殺人」を、通常の殺人より重い「尊属殺人」と規定する「親に孝」的な要件を違憲とした1973年のケース。

 以下、薬局開設の距離制限規定、議員定数配分、在日外国人の権利などの違憲判断が続き、近年では両親のうち片方に日本国籍がない非摘出子の日本国籍取得、非摘出子の遺産相続、女性の再婚禁止期間を100日を超えるものとする民法733条1項などがあります。

 憲法は国権を縛る法規ですから、法の名の下に結婚や出産に関わることを行政(=国)が国民に強要してはならないと、司法(=裁判所)が判断したわけです。

 考えて見れば明らかと言えば明らかです。

 国民が何かを希望した場合、身体に変更を加える強制的な手術を「国が義務付ける」のは相当な話であって、そのような法案を作ったり、それを通過させてしまったりした国会の判断水準からして、どのようなものであったのか、改めて考えざるを得ないように思います。