子どもは人気子役タレントではない
──成田さんは著書の中で、幼少期の育児の目標は「立派な原始人」に子どもを育てることにあり、自然界で生きる原始人の基礎的なスキルである「寝る・食べる・動く」を獲得するところにある、と説明されています。他者への想像力や集団の中での立ち振る舞いなどは、そうしたスキルがないとそもそも身に付かないと。小学生くらいまでの子どもは原始人的要素満載で、利口な子どもの方がどこか不自然な気もしますが。
成田:「『発達障害』と間違われる子どもたち」の中でも詳述しましたが、人間が成長して社会性を獲得していくためには、脳の発育期に原始人とも形容できるスキルである「寝る・食べる・動く」を自分の力でできるようにさせることが不可欠です。
大人の目から見たら「わがままがすぎる」とか「喜怒哀楽が激しい」、「落ち着きがない」という症候は原始人が近代人に成長していくために必要不可欠なフェーズなのです。小学校低学年くらいまで、まだ脳が未発達ですから、周囲は「原始人だな」と思って受け止めるのが本当は一番良いのだと思います。受け入れられると、子どももだんだん成長していって、立派な近代人になっていきます。
この間も、女性誌の子育て企画の取材を受けました。今のママたちは「子どもは原始人である」という観点があまりないそうですね。(小学生の)子どもには利口でみんなと仲良くできてほしいと。でもそれは、脳の発達理論と照らし合わせても、無理な話なんですよ。
──子育てに関する情報があふれすぎていて、「子どもをこういうふうに育てなきゃいけない」という強迫観念も強まっているのかもしれませんね。
成田:名前は出しませんが、某有名子役タレントのような子どもに育てたいという親御さんは多いですね。みんなと仲良くできて、親の言うことはきちんと聞いて、いつもニコニコ。そんな子ども存在しないし、ちょっと怖さすら感じますよ。
原始人として振る舞っている子どもをみると、割と今の人たちは眉をひそめる傾向にあることも、子どもを苦しめている原因の一つかもしれません。
子育てに正解はありませんが、自立を考えた時には忘れ物を絶対にしないとか、宿題を絶対にこなすとか、そういうことよりも「自分はこんなことが得意なんだ/苦手なんだ」と自分で理解できる能力を身につけた方が良いと思います。そのためには、まずは「寝る・食べる・動く」を自力でできるように、家庭で注力するべきでしょう。