才能を発揮するための条件

──歌舞伎俳優の方の話だけを切り出すと、教育、すなわち共有環境をしっかりと整備することによって、ある程度、遺伝を凌駕することが可能だというように感じられました。

安藤:そういうことです。非常に特殊な環境であれば、共有環境は能力にかなり効いてくると思います。

──であれば、教育熱心な方が、教育虐待とも呼べるような教育環境に自身の子どもを置いてしまう恐れもあると感じたのですが、いかがでしょうか。

安藤:その可能性は十分にあるでしょう。

 ただ、歌舞伎俳優の例では、「物心つく前から特殊な環境に身を置く」「ほかの人がその技能を習得する機会に恵まれることは滅多にない」という前提条件がありました。

 勉強やスポーツの英才教育を子どもにほどこすことは可能です。ただ、勉強にしろスポーツにしろ、多くの人がチャレンジする機会に同じように遭遇する可能性は非常に高い。歌舞伎と違い、競争相手が圧倒的に多いのです。

 多くの競争相手がいる中で、頭角をあらわそうとしたとき、「共有環境でこういったファクターを揃えればOKです」ではすまされません。その分野で本当にトップに立てるか否かには、自身がやっていることが好きかどうかという趣味嗜好や向き不向き、継続的な努力を続けられるかといった遺伝的な心的形質が深くかかわっているはずです。

 結局は、環境と遺伝がベストでなければ、ある分野で才能を発揮することは難しいということです。