フランケンシュタイン博士もびっくり!

イグノーベル機械工学賞
受賞者:Te Faye Yap, Zhen Liu, Anoop Rajappan, Trevor Shimokusu, Daniel Preston(インド、中国、マレーシア、米)
受賞理由:死んだクモを機械の手として蘇らせた

 昆虫の動きなどを外部から制御する試みはこれまでにもありましたが、この研究は、(1)死んだクモをそのまま機械の手として利用して、(2)それに「ネクロボティクス」という大変かっこいい名をつけたところに新味があります(※3)。「死体を用いるロボット技術」というところでしょうか。(生物の死体や生体を利用する「ソフトロボティクス」と呼ばれる分野は以前からあります。)

 クモの足は、体液の圧力で動きを制御する、ある種の水圧駆動を使っています。そのため、クモの体内に注射針を差し込んで圧力を調節することで、クモの足を操作できます。この原理で、クレーンゲームのクレーンのような手を作成しました。試験したところ、体重の1.3倍の荷重を持ち上げることに成功し、700回の使用に耐えたとのことです。

 論文の写真は閲覧注意です。

図:クモの死体から機械の手を作成する方法(閲覧注意)。 Image by T. F. Yap et al., under CC BY 4.0.
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※3:Te Faye Yap, Zhen Liu, Anoop Rajappan, Trevor J. Shimokusu, Daniel J. Preston, “Necrobotics: Biotic Materials as Ready-to-Use Actuators,” Advanced Science, vol. 9, no. 29, 2022, article 2201174.

スマートトイレがあなたのウ○チを監視する

イグノーベル公衆衛生学賞
受賞者:Seung-min Park(韓国、米国)
受賞理由:尿検査やカメラによる排泄物分析や肛門指紋識別や通信機能などの技術を用いて人間の排泄物を分析するトイレの発明

 排泄物はその持ち主の健康状態を反映していて、病気の診断にも使われます。しかしこれを長期間にわたって継続的に行なうようなシステムは作られたことが(たぶん)ありません。ここで提案されているスマートトイレは、尿の量や成分を測定し、排泄物をカメラで分析して、使用者の健康状態を診断するというものです(※4)。

  よその人がそのトイレを使ったら、データやら何やらが入り混じって正確な診断ができなくなってしまうのでは、と思われるかもしれませんが、このスマートトイレには使用者を「肛門指紋」で認識する機能があります。肛門付近の様子は一人ひとり違っていて、指紋のように個人識別に使えるというのです。ぜんぜん知りませんでした。スマートトイレの取得する超個人情報は、暗号化されてクラウドサーバにしまわれるとのことです。

 知らないうちに自分の肛門指紋が採取されていたら、と思うと尻のあたりが何だかうすら寒くなりますが、幸い(?)まだこのシステムは提案段階で、実現してはいないようです。

 イグノーベル賞は、この研究のような下ネタ・ウ○チネタに、毎年授与される伝統があります。

※4:Seung-min Park, Daeyoun D. Won, Brian J. Lee, Diego Escobedo, Andre Esteva, Amin Aalipour, T. Jessie Ge, et al., “A Mountable Toilet System for Personalized Health Monitoring via the Analysis of Excreta,” Nature Biomedical Engineering, vol. 4, no. 6, 2020, pp. 624-635.

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イグノーベルコミュニケーション学賞
受賞者:María José Torres-Prioris, Diana López-Barroso, Estela Càmara, Sol Fittipaldi, Lucas Sedeño, Agustín Ibáñez, Marcelo Berthier, Adolfo García(アルゼンチン、スペイン、コロンビア、チリ、中国、米国)
受賞理由:バックワードスピーチの達人の精神活動の研究

「banana(バナナ)」を後ろから「ananab(アナナブ)」と発音することを「バックワードスピーチ」といいます。世界にはこのバックワードスピーチに熟達した人がいて、例えばスペインのラ・ラグーナ地方では、住人の多くがこれを(スペイン語で)流暢にしゃべるそうです。バックワードスピーチをラ・ラグーナの文化遺産として登録する運動がありましたが、今のところ認められていないとのことです。イグノーベル賞受賞研究を読んでいると、世の中の広さに本当に感心させられます。

 この研究は、2人の達人(43歳の左利きのシステムエンジニアと50歳の右利きの写真家)にバックワードスピーチで話してもらって、その時の脳や神経の働きをボクセル・ベース形態測定法やMRIといった格好いい名前の手法で調べた(※5)というものです。

※5:María José Torres-Prioris, Diana López-Barroso, Estela Càmara, Sol Fittipaldi, Lucas Sedeño, Agustín Ibáñez, Marcelo L. Berthier, Adolfo M. García, “Neurocognitive Signatures of Phonemic Sequencing in Expert Backward Speakers,” Scientific Reports, vol. 10, no. 10621, 2020.