上を向いて止まろう
イグノーベル心理学賞
受賞者:Stanley Milgram, Leonard Bickman, and Lawrence Berkowitz(米国)
受賞理由:道で上を向いて立っていると何人の通行人がつられて上を向くかという実験
スタンリー・ミルグラム(1933-1984)はアメリカの心理学者です。ミルグラムの最も有名な業績は、1960年代に行なわれた一連の心理学実験です。「アイヒマン実験」とも呼ばれるその実験は、権威ある人間に命令された人間は、他人を傷つけたり痛めつけたりするような倫理に反する行為でも、実行してしまうということを示したものです。
今年のイグノーベル賞を受賞した研究は、1969年のもので、何人もの人間が道でぽかんと上を向いて立っていると、どれくらいの通行人がそれに釣られるかを調べるという実験です(※9)。ミルグラムはこのたぐいの実験をいくつも行なって、人間がつい従ってしまう習性や、社会の暗黙のルールを調べて、人間の本性を明らかにしました。
ミルグラムの実験はどれもイグノーベル賞にふさわしいですが、1969年の研究にいま授与する理由は、特に説明がありませんでした。
嵐を呼ぶイワシ
イグノーベル物理学賞
受賞者:Bieito Fernández Castro, Marian Peña, Enrique Nogueira, Miguel Gilcoto, Esperanza Broullón, Antonio Comesaña, Damien Bouffard, Alberto C. Naveira Garabato, Beatriz Mouriño-Carballido(スペイン、ガリシア、スイス、フランス、英国)
受賞理由:イワシの性行動によって海水がどれほど撹拌されるかを測定
海水は絶えず撹拌され循環していて、それには乱流が大きな影響をおよぼしています。生物がどれほどそれに貢献しているのかはよく分かっていませんが、大したことはないだろうと考えられてきました。
この研究では、産卵のために集まったイワシが、センチメートルサイズの乱流を通常の10倍〜100倍にも激しくするということを観測で明らかにしました(※10)。生物による海水の撹拌への影響は、見直す必要があるでしょう。こういう、動物の性行動や生殖器に関する研究もイグノーベル賞の好物です。
講評
さてこれで、2023年イグノーベル賞の10本の受賞研究を全て紹介しました。愚かな政治に皮肉の意を込めて授与されることもあるイグノーベル賞ですが、今年受賞したのは全て(ある程度)真面目な研究でした。世相の反映かもしれません。(このごろ人騒がせな行動で批判を浴びている某富豪あたりに授与するくらいの批評性を個人的には期待しています。)