いまだに党内で隠然たる影響力を持つトランプ氏は、2024年大統領選で共和党指名候補になることで連邦裁・州裁公判での勝訴を狙うためなら手段を選ばず、だ。

 保守派判事が牛耳る最高裁と、共和党が過半数を有する下院、そしてFOXニュースは、トランプ氏にとっては「バイデン政権の暴挙」を妨害できる数少ない砦である。

 トランプ氏にとっては、民主党が下院を制覇していた時には2度にわたって弾劾決議案を可決・成立させた下院での「屈辱」は忘れられない。

 トランプ氏は、憎きナンシー・ペロシ下院議長(当時)が指揮した弾劾工作の仇を討つことを退任直後から考えていた、とニューヨーク・タイムズは書いている。

(本年度直木賞受賞作品の永井紗耶子の)『木挽町のあだ討ち』ならぬ「キャピトルのあだ討ち」だった(実際には人を殺めていないが目撃者には殺めたように見せるという点で相通じる、という比喩を込めて)。

プーチン大統領は「汚れきった政治」とあざ笑う

 主要メディアのベテラン記者G氏はこう見ている。

「上院の出席議席3分の2を取らなければ弾劾は成立しない。バイデン弾劾はまず実現しない」

「それでもトランプ氏がマッカーシー氏にごり押しさせたのは、『あだ討ち』という面だけではなく、共和党の熱烈なトランプ・カルトを満足させ、世論を巻き込み、法廷闘争を有利にするためだ」

「世論調査では圧倒的な支持を得ているトランプ氏としては下院委員会の公聴会でバイデン氏の『汚職文化』の実態を暴き、『俺もバイデンも五十歩百歩だ』と世間にアピールしたいのだろう」

 もっとも世界はそうは見ていない。

 現に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、金正恩・総書記との会談の合間、記者団に「(米国内の政治対立について)汚れ切った政治」とあざ笑った。

 あの独裁者に言われるのだから米国は身もふたもない。

reuters/putin-says-trump-prosecution-shows-us-system-is-rotten

 トランプ氏周辺によると、トランプ氏はバイデン弾劾訴追シナリオの先をこう見ている。

 バイデン弾劾実現はともかくとして、2度にわたって弾劾された「前歴」を何とか記録から削除、さらに政権に返り咲いた暁には大統領権限でバイデン氏を起訴させる青写真まで用意しているという。

nytimes/2023/09/13/trump-gop-biden-impeachment