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(文:上昌広)

26歳医師の過重労働による自殺は、医師という職業について様々な問題を提起した。その解決で重要なのは、病院との雇用関係に縛られるのではなく、パートナー制度でプロフェッショナルとしての自由度を増すことだ。

 神戸市の甲南医療センターに勤務する26歳の内科医が自殺した。日本では、あまり議論されることはないが、本件は、「プロフェッショナル」の働き方を考える上で示唆に富む。本稿で論じたい。

経営難ゆえに医師を酷使する病院

 この事件については、多くのメディアが報じており、ご存じの方も多いだろう。自殺の原因は過重労働だ。地元紙の『神戸新聞』によれば、「自殺する前の1カ月間の時間外労働は国の精神障害の労災認定基準(160時間)を大幅に超える207時間に及び、休日は約3カ月間なかった」(8月17日)そうだ。西宮労働基準監督署は労災認定したという。

 これは由々しき状態だ。メディアは「実兄の告発「院長が葬儀で暴言を…」」(『週刊文春』8月31日号)など、病院の経営体制を批判する。

 甲南医療センターは、昭和9(1934)年に平生釟三郎が創立した阪神間の名門病院だ。平生は文部大臣や貴族院議員を歴任し、甲南学園の創設者としても知られている。

 現在、同センターの院長を務める具英成医師は、地元の神戸大学医学部を卒業し、同大学院肝胆膵外科教授などを歴任した医学界の著名人だ。名門病院で起こった事件に、メディアは属人的視点から批判を浴びせている。

 もちろん、私も経営陣に問題はあったと思う。ただ、彼らを批判するだけでは問題は解決しない。なぜなら、彼らにも、若い医者を「酷使」しなければならない理由があるからだ。

 それは病院の経営難だ。医療費抑制が続く我が国では、病院経営は厳しい状況にある。甲南医療センターを経営する公益財団法人甲南会の財務諸表によれば、2022年度の医業関連収益は約192億円で、約32億円の補助金がなければ13億円の赤字だ。

 補助金の多くは、コロナ関連だろう。コロナが感染症法上の5類に変更された現在、このような状況はいつまでも続かない。医療機関は独自に稼がなければならない。

若手医師を抱え込む「医学部地域枠制度」

 医療機関が「稼ぐ」には、医師を増やし、彼らを少しでも働かせるしかない。それは、我が国の医療体制では、医師の診療行為に対して診療報酬が支払われ、診療報酬は厚生労働省が全国一律にきめているからだ。看護師や理学療法士などのコメディカルは、独自に稼ぐことはできないし、患者の満足度が高い「高付加価値」な医療だからといって患者に高い医療費を請求することはできない。

 病院は医師が働いた時間の分だけ、売上を増やすことができる。医療機関は、1人でも多くの医師を抱え込み、少しでも多くの時間を働かせようとしてきた。

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