事故に遭った潜水艇「タイタン」(写真提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

豪華客船タイタニック号の沈没地点を目指して深海に潜った潜水艇「タイタン」の事故は日本でも大きく報道された。捜索の結果、乗員5人全員が死亡したとの見解を当局が発表する事態となった。原因としてずさんな計画や設計が原因と指摘する声が多い。人気コラムニストの伊東乾氏が事故原因を考察した記事が大きな反響を呼んだ。英BBCが2022年にタイタンの内部を取材した映像とあわせ、伊東氏の一連の論考をまとめた。(JBpress編集部)

 まずは、こちらの記事で掲載した映像をご覧いただきたい。2022年にBBCが取材したタイタン内部の映像だ。

◎6月21日にJBpressで公開(配信終了)
潜水艇は「ジョイスティック」で操縦 行方不明前にBBCが内部を撮影

(配信先のサイトでご覧になっている場合、下記の関連記事リンクまたは「JBpress」のサイトから記事をお読みください)

潜水艇「タイタン」を操縦するジョイスティック(写真:Best Image/アフロ)

 映像では、タイタンの運航会社である「オーシャンゲート」代表のストックトン・ラッシュ最高経営責任者(CEO)が、自ら船内で潜水艇の操縦方法を解説している。手に持つのは、ロジテック製のジョイスティック。ソニーグループのゲーム機「プレイステーション」で遊ぶように、ジョイスティックを操作して潜るのだという。

 ラッシュCEOは今回、他の4人のツアー客とともにタイタンに乗船し、命を落としている。
 
 今回の事故が注目を集めたのは、何らかの原因によりタイタンが水圧に押し潰され、「爆縮」したとされる点だ。コラムニストの伊東氏は、深海における水圧の脅威を解説した。

技術音痴の経営が「事故」を招いたか

 伊東氏は、「技術音痴の経営で、『事故』というにはあまりにも人為の割合が高いと言わざるを得ない今回のようなケースが今後再び起きないように警鐘を鳴らしたい」と執筆の動機を説明する。

◎6月29日にJBpressで公開
タイタンの乗客乗員をバラバラにした深海水圧はどれほど脅威か

 この記事では、「10メートル潜ると1気圧相当の圧力がかかる」という水圧の基本に触れた上で、約4キロメートルの深海底に2時間半かけて降下する予定が1時間45分ほどで連絡が途絶えたという報道から、単純計算して爆縮は水深2.4キロメートルほど潜ったところで発生したと推定。約240気圧の衝撃が瞬時に乗船した5人に襲い掛かったと試算した。伊東氏は「瞬時にしてバラバラ」になったと指摘した。

 そして、次の記事ではタイタンの製造に使われたというカーボンファイバー素材について考察した。

使用期限切れの素材が一因か

 報道では、タイタンの製造には、米ボーイング社がジェット機用に準備して使用期限を過ぎたカーボンファイバー素材を使用していたとされる。一般的に炭素繊維素材は非常に強固とされるが、ダイヤモンドでもハンマーで叩けば割れるという事実を引き合いに、炭素繊維素材も「硬いけれど、状況が悪くなると意外に脆く、壊れるときには一瞬にしてベキッとイってしまう」と指摘した。

◎7月1日にJBpressで公開
設計時点で破断が約束されていた潜航艇タイタン

 伊東氏は次のように述べる。

「設計にもタッチしたと思われるラッシュCEOが、アマチュア・ダイバーとしての経験と、40年前学部まででストップした航空工学のごちゃまぜで『ボーイング社が放出した使用期限切れのジェット機体用カーボンファイバー素材を買い込んできて、本質的に沈むように運命づけられた愚かなミス設計の潜水艇タイタンを捏造したから』と察せられます」

 また、7月3日に公開した以下の記事で伊東氏は、あらためて科学的な知見で物事を判断する大切さを強調した。

◎7月3日にJBpressで公開
タイタン遭難と室温超伝導をつなぐものは何か

 超高圧下ではどのような現象が起きるのかを解説しつつ、「深海底の水温と圧力を想起した時点で何が起きるか、高校生程度のサイエンスでも、きちんと基礎を理解していれば、ほぼ瞬間的に答えの察しはついてしまいます」と指摘する。