筆者の事前予想を大きく裏切って、前回稿「タイタンの乗客乗員をバラバラにした深海水圧はどれほど脅威か?」は多くの方にお読みいただけたようです。
そこで続編として、前回稿に記さなかったより踏み込んだ内容を補ってみたいと思います。
まず最初に、前回反響の大きかった「ボーイング社が安価に放出した、ジャンボジェットの機体に使われる使用期限を過ぎたカーボン繊維」関連の確認から始めましょう。
タイタン号の製造に使われたカーボンファイバー素材は、ボーイング社がジャンボジェット用に準備し、使用期限を過ぎてしまったものをかなりの安値で購入したらしい。
今回の事故(事件)を引き起こしたオーシャンゲート社のストックトン・ラッシュCEO(最高経営責任者)が生前語っていたと報道されています。
さらには、2019年4月、タイタンがバハマ諸島沖で潜水した際、潜水艇の専門家が船体に亀裂が入るような「やばい音」を耳にし、ラッシュCEOに忠告したのに、全く耳を貸さなかった経緯も報じられています。
これらは炭素繊維の物性を少しでも理解していれば、高校生にも理解できる分かりやすい脆性破壊の状態を如実に示しているわけですが・・・。
結論は末尾に記すとして、まず1の1から常識の源流を探訪しましょう。
ダイヤモンドも叩けば割れる
多くの人がダイヤモンドは硬いと、どこかで聞きかじって知っているかと思います。
では、大きなダイヤモンドの塊を鉄のハンマーでぶっ叩いたら、ハンマーの打面にダイヤがめり込んで刺さるか?
というと、残念ながらそんなことはありません。
ダイヤの表面を千枚通しや錐で引っ搔いても、傷をつけるのは容易ではありません。
しかしダイヤをハンマーでぶっ叩けば、実に簡単に粉々に割れてしまう。テレビ番組の動画を張り付けておきましょう。文字通り「粉々」に砕け散っているのが見えるでしょう。
こうした基本的な物性をオーシャンゲートのラッシュCEOは全く理解していなかった、あるいは極端に軽視していたことが察せられます。