産総研の産業スパイ事件とされるものの裏には何があるのか

 6月15日、茨城県つくば市の「産業技術総合研究所」から、研究データを中国企業に漏洩したとして、警視庁公安部が中国籍の同研究所上級主任研究員、権恒道容疑者(59)を逮捕したという報道がありました。

 この出来事について、大手を含む報道メディアの「理系音痴」ぶりが全開しています。

 また、ネット上では陰謀説的なマンガも出回っているのを目にし、過不足ないきちんとした情報の交通整理が必要だと思います。

 以下、何があったのか、私たちは何に気を付ける必要があるのかなど、チェックしてみたいと思います。

どんな「情報漏洩」があったのか?

 報道に従うなら、「権容疑者」は2018年4月13日の午後4時頃、自身が研究開発に携わっていたフッ素化合物の合成技術に関する研究データを、産総研の電子メールアカウントから中国企業に送付し、「営業秘密」にあたる研究情報を漏洩したとされます。

 ちなみに権容疑者はフッ素化合物の研究者で、地球温暖化・地球環境変動を引き起こした犯人物質と考えられるフロンへの対策など、環境化学の分野で30年来研究を続けてきた専門家です。

 警察の取り調べに対して、権容疑者は「営業秘密にあたらない」と容疑を否認している様子が伝えられています。

 大手メディアを含む報道が、「この容疑者は2002年から日本の研究機関に入り込んでいた」的な表現、あるいは「フッ素化合物は半導体に関係し、軍事転用も可能な技術である可能性も・・・」的な煽り方をしているのは、科学リテラシーの低さ加減において、やや滑稽です。

 過不足なく、報道されている内容をチェックしてみましょう。

 まず、産業技術総合研究所(以下「産総研」)の「上級主任研究員」というポストについて、面白い報道が目立ちます。

研究の取りまとめ役か」(テレビ東京)とか「逮捕中国人が研究の中心」(東京新聞)といったユーモラスな表現が並び、思わず苦笑してしまいました。

 なぜこういうことになるかというと、日本のマスコミ記者は新人時代から「お前の考えなど書かなくてよい、すべてぶら下がりで発表された内容を取ってこい」と教えられるからでしょう。

「捜査関係者」つまり警察で、科学も技術も何もわからないサイエンスリテラシー水準で語られる内容をさらに伝聞で書くから「まとめ役か?」などという面白い表現になるのでしょう。