産総研の情報漏洩事件は日本の知財管理の問題点を浮き彫りにしている

 前回稿「産総研の中国人研究者によるスパイ容疑、何があったのか」を校了した直後、中国人研究者情報漏洩事件に関して、より詳細な続報がありました。

 すでに指摘した通り、やはり知財、特許を巡る問題がめくれてきた格好です。報道の内容を確認してみます。

 まず読売新聞

 国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市)の技術情報漏えい事件で、(中略)権恒道容疑者(59)(不正競争防止法違反容疑で逮捕)から研究データの提供を受けた中国企業が、約1週間後に中国で特許を申請していたことが捜査関係者への取材でわかった。内容が類似しており、警視庁公安部は研究データを転用したとみている。

 さらに毎日新聞

 容疑者の妻が漏えい先代理店社長 中国で特許申請か (中略)権恒道容疑者(59)=不正競争防止法違反容疑で逮捕=の妻が、漏えい先とされる中国企業の日本代理店の社長だったことが、捜査関係者への取材で判明した(中略)

 漏えい先とされるのは中国の化学製品製造会社で、つくば市内にある日本代理店の社長を権容疑者の妻が務めている。同社は2018年4月、権容疑者からデータを受け取った約1週間後に中国で特許を申請し、20年6月に取得した。申請内容のデータは流出したものとほぼ同じで、発明人として権容疑者が名を連ねていたという。

 こうなってくると、話は全く変わってきます。

 問題となる中国の化学製品製造会社はつくば市内、産総研の目と鼻の先に日本代理店を構えており、その社長は「権容疑者」の妻であるという。

 そして情報漏洩から約1週間後に同一内容の特許が中国で出願され、発明人として権容疑者の名も連なっていたとなれば、完全に計画的、かつ長期的に仕組まれた知財化の策略であったと考えられます。

 ここでスパイ防止だの何だのという話題に飛躍しても、実はあまり意味がありません。

 というのは、国家規模のスパイ行為であれば、妻が社長の企業名で自分を発明人にして中国の特許を取ったりしないし、そもそも産総研にすべてバレバレの産総研メールアドレスを利用して、情報送信するプロのスパイはいない(苦笑)からです。

 家族を大切にする中国で、個人の図利を狙った「ファミリー犯罪」と見るのが、本件については妥当そうに思います。少なくとも軍事スパイの何のという色彩は、ここまではおよそ見えてきません。

 ところが、大学・研究機関の実情を知らない人が、無関係な制度を作っても、日本の知財はちっとも守られず、むしろ事態を悪化させる可能性が高い。

 全く考えもなしに、1990年代の日本で無意味に進められた大学院重点化と、その結果、日本人学生だけでは到底定足数に満たない日本の大学院の特に博士課程の実情など、より構造的な観点から、本質的な対策を講じなければ、技術立国日本は早晩滅んでしまうでしょう。

 まずは外国人留学生、特に中国を含む東南アジアからの留学生がいなければ、ほとんど存続困難な日本の大学院研究事情から、この問題を考えてみます。