タイタンに使用されていたのはジェット航空機体用のカーボンファイバー素材、つまり炭素繊維で、ダイヤモンドと同様、一面では極めて高い硬度を示します。

 と同時に炭素繊維は硬いけれど、状況が悪くなると意外に脆く、壊れるときには一瞬にしてベキッとイってしまう。

 今回のタイタンは、引き揚げられた残骸の写真によって、それで潰れてしまった可能性が高いことが分かります。

 どうしてそんな壊れるような潜航艇を作ったのか?

 その原因を今回水死したと思われるストックトン・ラッシュCEO の経歴から察せられる気がします。

 ラッシュCEOは1962年3月に米国カリフォルニア州サンフランシスコで生まれていますから享年61歳だった。

 12歳でスキューバダイビングを始め、18歳でコマーシャル・パイロットとして働きつつプリンストン大学で航空工学を学んでいるので、なかなかの秀才だったことが分かります。

 ただし、子供としてはという話です。

 学卒、テクノロジーの大学院には通っておらず、つまりありものの航空工学を習っただけ、新しい何かを創るのが大学院研究室ですが、それ以前に航空研究からすら離れてしまった。

 ごく短期間、マクダネル・ダグラスでテストエンジニアとして働いているので、自動車でいえば整備士相当の経験が数か月あった。

 車の整備と、新しい車の設計、実装とは全く違う。その程度に、プロとは程遠いエンジニアリングであったことが察せられます。

 さらにその後、ラッシュCEOはUCバークレーでMBAを取得、つまり文転(文系に転向)してお金を儲け始めます。

 テクノロジーも分かるという触れ込みだったのでしょう。幸か不幸かベンチャーキャピタリストとして成功し、食べるのに困ることはなくなったようです。

 そして、技術は完全に素人なのに今回のような事業を始めるお金を集めるネットワークも築き上げた。

 これは両刃の剣としか言いようがありません。