
(ライター、構成作家:川岸 徹)
アメリカのサンディエゴ美術館と日本の国立西洋美術館のコレクションを組み合わせ、比較対照しながら展示するというユニークなスタイルの展覧会「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」。2館の所蔵品の掛け合わせにより、作家の個性や特徴、時代背景などをより深く理解することが可能だ。
コターンの“あの絵”が初来日
国立西洋美術館で開幕した「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」に、アメリカのサンディエゴ美術館からフアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》が出品されている。「最も偉大な静物画」「ボデゴンの歴史を作った記念碑」などと形容される、美術の教科書でもおなじみの名画。制作から400年以上の時を経て、今回が初来日。「日本で見られる日が来るとは」と感激している人も多いのでは。
フアン・サンチェス・コターンは、17世紀初頭に「ボデゴン」と称されるスペイン独自の静物画のスタイルを確立した画家。トレドで工房を営み、彼の代名詞といえる静物画を手がける。だが43歳の時に修道士となり、それ以降は宗教画しか描かなかった。現存するコターンの静物画は世界に6点しかないとされている。
《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》はその6点の中で最高傑作といわれる作品。出窓の縁のような空間にマルメロとキャベツが吊り下がり、その横にメロンとキュウリが置かれている。背景の黒は各モチーフの存在感を際立たせるとともに、厳粛で静かな空間を作り上げている。
展覧会開幕に合わせてサンディエゴ美術館からヨーロッパ美術担当学芸員のマイケル・ブラウンが来日し、作品の凄さについて述べた。「ありふれた食材を描いたシンプルさ。巧みな余白の使い方。永遠に到達できないかのような無限さを感じさせるモチーフの配置」。この絵に魅せられる理由を言語化すると、そうした説明になるだろう。だが理屈抜きに、ただただこの作品に惹かれてしまう。
展覧会ではコターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》のほかにも、サンディエゴ美術館所蔵の素晴らしいスペイン絵画が鑑賞できる。特にフランシスコ・デ・スルバランの4点がいい。