家康が築山殿の謀をすんなり受け入れた「違和感」
しかし、結局ドラマの展開としては、築山殿のもくろみは織田側に露見してしまう。キーパーソンとなったのは、眞栄田郷敦演じる武田勝頼である。
勝頼は築山殿の壮大な構想に賛同し、家康と連携したふりをしていただけで、腹の底では「父・信玄を超える」という野心を捨ててはいなかった。古川琴音演じる千代と、田辺誠一演じる穴山信君を呼び出して、まさかの指令を出すことになる。
「すべてを明るみに出す頃合いよ。噂を振りまけ。徳川は織田を騙し、武田と裏で結んでおると」
これで築山殿の謀(はかりごと)は露見することとなる。ここからは怒れる信長のターンとなり、次回を迎えることになった。
これまでの歴史ドラマで、これほど勝頼が存在感を発揮したことはなかった。てっきり勝頼は良い役どころを与えられたと思いきや、まさかの裏切りとなった。だが、勝頼の次の言葉に「ごもっとも」とうなずいた視聴者のほうがむしろ多かったのではないか。少なくとも筆者はその一人である。
「すまんな。やはりわしは、女子(おなご)のままごとのごとき謀には乗れん」
築山殿が実は、戦のない世を夢見ていたというのは、これまでのドラマ上の流れからも納得がいく。また、築山殿から夢を託された家康が江戸幕府を開くことで、それを実現させるという壮大な物語も斬新ではある。
しかし、築山殿が家康に相談せずにここまで動いていたこと、またこれほどの大きな方針の転換を、家康や家康の重臣たちが受け入れて、すぐさま実行に移したのは違和感がある。
今回の大河は回想シーンが多用されるのも特徴の一つだ。次回で、家康や家康の家臣たちが、築山殿の構想に賛同した背景が描かれることを期待したい。
【参考文献】
大久保彦左衛門、小林賢章訳『現代語訳 三河物語』(ちくま学芸文庫)
大石学、小宮山敏和、野口朋隆、佐藤宏之編『家康公伝〈1〉~〈5〉 現代語訳徳川実紀 』(吉川弘文館)
太田牛一、中川太古訳『現代語訳 信長公記』(新人物文庫)
中村孝也『徳川家康文書の研究』(吉川弘文館)
所理喜夫『徳川将軍権力の構造』(吉川弘文館)
本多隆成『定本 徳川家康』(吉川弘文館)
二木謙一『徳川家康』(ちくま新書)
菊地浩之『徳川家臣団の謎』(角川選書)