タイタンが実際に受けた水圧

 さて、ここまで確認したうえで、再びタイタンの事件(事故というにはあまりに人為的責任の度合いが高い)を見直してみましょう。

 約4キロの深海底に、2時間半かけて降下して行こうとしていたタイタンは、1時間45分ほどで連絡が途絶えます。

 これを、ごく単純化して150分で4キロ降下の途中、105分程度~6割ほどの場所、ざっくりと水深2.4キロほど沈んだ時に発生したと考えるなら、そこでの水圧は、

p≒0.1×h(気圧)

 ここでhはメートル単位、2.4キロは2400メートルですから

p≒0.1×2400≒240気圧程度

 深海艇タイタンの外壁が水深2.4キロの海底で突然破れるというのは、240気圧のインパクトが5人の乗員に突然襲い掛かる状況を意味します。

 これは、先ほどの計算を遡行するなら指先の1平方センチに240キログラムの圧力が突如として掛かるのと同じことになる。

 0.7気圧のインパクトで家の柱や電柱が折れたり曲がったりするところにもってきて、生身の人間に240気圧が瞬時にかかるなら・・・。

「ぺちゃんこ」という表現はたぶん当たらないでしょう。というのは生物の結合組織というのは、そんなに強くできていないからです。

 おそらく「瞬時にしてバラバラ」になり、海の藻屑となって四散した可能性が高い。

引き上げられたタイタンの一部とみられる残骸(写真:AP/アフロ)

 それを米国沿岸警備隊は「5人全員死亡と考えられる」とのみ、マイルドに表現したわけです。

 報道によれば、オーシャン・ゲート社のラッシュCEOは、タイタンの船体をボーイング社から使用期限切れの航空機用カーボン素材を大幅な割引安値で購入して作成したとのこと。

 カーボン素材の引っ張り強度などについては、もし読者リクエストがあれば別途解説もしますが、端的に言って深海艇を作成するうえでは初歩的な大間違いを繰り返し、事態を楽観していたことが察せられます。

 安全性について問われ、自分自身も同乗する、それくらい安全などと軽口を叩いて無謀な船に乗り込み、乗員乗客とともに命を失ったというのが、今回の「事件」の一断面と考えられます。

 こんな経営をされた日には、たまったものではありませんが、電力会社の原発安全性評価を筆頭に、果たしてどの程度、科学的な裏打ちのなされたマネジメントがなされているのか?

 他人事と笑って済ませられない日本国内の国情があるように思われてなりません。