「容疑者」ではなく「メンバー」

 象徴的なのは、当時はジャニーズ事務所に所属していた稲垣吾郎が2001年、道路交通法違反(駐車違反)ならびに公務執行妨害罪(のちに不起訴)の容疑で逮捕された時のこと。TBSなど民放は「稲垣メンバー」と呼んだ。平等であるべき報道を不平等にしてしまった。これではジャニー氏の性加害問題が報じられるはずがなかった。

 その流れは新聞界にも波及した。2018年、TOKIOのメンバーだった山口達也(51)が女子高生への強制わいせつを行った容疑で書類送検(のちに不起訴)されると、読売新聞を除いた大半の新聞が「山口メンバー」と書いた。

 ただし、山口が同年にジャニーズ事務所を辞め、2020年にオートバイの酒気帯び事故を起こすと、今度は全ての新聞が「山口容疑者」と表記。特別扱いはなくなった。ジャニーズ事務所は自社のネガティブ報道のコントロールが出来ていた。

ジャニーズのスキャンダルはマスコミにとってのタブー

 コントロールから解き放たれたのはイギリスのBBCがドキュメンタリー動画『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を動画配信した3月7日以降。現在、最も厳しくジャニーズ事務所を追及している新聞は朝日新聞に違いない。たとえば同事務所が「再発防止特別チーム」を立ち上げると、朝日は「ジャニー氏性加害、遠い解明 外部専門家、被害掘り起こさない方針」(6月13日朝刊)と酷評した。

 朝日は5月27日付朝刊で「<多事奏論>ジャニーズ性加害問題 新聞に欠けていたものは」という署名入り記事を載せている。朝日が性加害問題を追及できなかった理由を自己分析している、その中にこんな下りがあった。

「ジャニーズがタブーだから報じなかったのではないか。そんな声も聞くが、少なくとも私が知る限り、朝日新聞の取材現場がジャニーズに忖度しなければならない理由はないように思う」(同)

 そうだろうか。朝日に限らず、新聞はジャニーズ勢のインタビューを載せ、連載を掲載している。ともに部数増に役立つ。また、朝日の場合、直系子会社が発行する『週刊朝日』の表紙が毎週のようにジャニーズ勢だった時期がある。これも売上増に効果大である。表紙のみを目的に買うファンがいるからだ。