「全部元通りに」は難しい
――高千穂の鉄橋、小坂のディーゼル車のような「名物」を生かしたテーマパークとは対照的ですね。
桑本氏:アトラクションはすごい例ですが、地元で協力し合えば、工夫次第で活用ができるということがわかる例だと思います。
もちろん、住民すべての方々が駅舎の活用に積極的だったというわけではありません。「景観が悪くなるから早く撤去してほしい」という声もあったそうです。
撤去するにもお金がかかります。話が進展しないうちにも草は生えます。雑草の伸び方、施設の荒れ方は想像以上です。
三河広瀬駅は現役時代の雰囲気をそのまま残したことにより、結果的に人が行き交う場所になりました。レトロなたたずまいの木造駅舎や、情緒を感じさせる廃線跡が残り、若い人たちの間でも撮影スポットとして話題になることもあります。
猿投―西中金の廃線は2004年、広瀬愛護会が立ち上がったのは2005年でした。三河広瀬の取り組みがスピード感を持って進んだ理由の一つが、全部を使おうとしなかった点にあると思います。
路線は山の中を走っています。全線で元通りの状態を保つということは無理があります。人手もお金もかかります。
秋田県の小坂鉄道もその点は同様でした。廃線区間のスポットごとにいろんな団体がいて、できる範囲で活用をしています。大館市内のレールバイクのアトラクションは、外国人観光客の人気スポットになっています。
住民と小学生とが一緒になって、廃線に沿ってアジサイを植える地域もあります。子どもたちに、生まれ育った地域に対する思いを育む狙いの取り組みです。
逆に、そのままの状態で活用されていない箇所もあります。調査では廃線路に沿った山道をバスで通りましたが、途中で朽ちてしまったり、線路下が空いて水が溜まっていたりという箇所もありました。
――住民主体の取り組みの中で、課題を感じる部分はありましたか。