プーチン大統領(写真:代表撮影/Russian Look/アフロ)

酒は「人間関係の潤滑油」と言われる。確かに会社の上司や部下、取引先などと酒を酌み交わし、本音をさらけ出すことで信頼関係を深め合えることもある。だが逆に、酒が入ったときの言動によって信頼関係をぶち壊してしまうこともあるのは読者諸兄もご存じの通り。同じことは政治や外交の世界でも起きている。上手に酒を使って仕事をした政治家もいれば、酒で取り返しのつかない失態を犯した者も……。そうした古今東西の政治家の酒にまつわるエピソードを集めた『政治家の酒癖』(栗下直也著、平凡社新書)が面白い。同書の中から選りすぐりのエピソードを紹介したい(JBpress編集部)。

(*)本稿は『政治家の酒癖―世界を動かしてきた酒飲みたち』(平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「節制しているから合理的判断ができる」とも限らず

 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、1年が経ったが、戦況は泥沼化している。プーチン氏の行動は、私が一冊かけて伝えたかったことを証明してくれた。酒を飲まなくても、体を鍛えて節制しても、まともな判断ができるとは限らない。泥酔して熟柿臭い息で演説する、シックスパックとは無縁のだらしない男が、政治家としてはまともな判断をする可能性を歴史は否定しない。

 プーチン氏は1952年に、レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)市に生まれる。レニングラード大学(現サンクト・ぺテルブルグ大学)卒業後の1975年に、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の対外情報部門に勤務する。この頃の活動の詳細は明らかになっていない。

 ソ連崩壊後にサンクト・ペテルブルグの第一副市長に就く。この時代は政治活動で多忙な市長を支え、市政を裏で取り仕切ったため「影の枢機卿」の異名をとった。枢機卿はカトリック教会で法王に次ぐ行政職で、緋色のガウンと赤の帽子を身につけている。プーチン氏は当時あまりにも地味で目立たないから、「影」と呼ばれたわけだ。

 それが今や枢機卿どころか王の座に就いて久しい。2000年に47歳でロシアのトップに就いてから、20年超。2008年には側近中の側近であったドミートリー・メドヴェージェフ氏が大統領に就いたが、実態はプーチン氏の傀儡政権で強権化に拍車がかかった。

 2020年に憲法も改正し、2036年まで大統領の座に居座れるようになった。退任の期限を迎える時には恐ろしいことに83歳になっている(米国のバイデン大統領の退任が82歳なのでインパクトは薄まったが。バイデン大統領は再選に意欲的とも言われており、もし出馬するとなると退任時は86歳だ)。

 もちろん、ウクライナ侵攻の影響もあり、途中で自ら退任する可能性も否定できない。だが、大統領の任期を「最長で2期12年間」と定めていたものを、「現職や大統領経験者の過去の任期は数えない」と変えたのは未だに権力欲が冷めないあらわれだろう。