飲まなくなったロシア人
プーチン政権は、午後11時以降の酒類販売禁止や蒸留酒の最低小売価格引き上げ、広告の制限などを進めた。ソ連時代末期、ゴルバチョフ政権の禁酒運動で消費が減少したが、ソ連崩壊後に爆発的に増えていた。
WHOは今やロシア人の平均飲酒量はフランス人やドイツ人を下回ったとしており、報告書で「ロシアが酒豪の国という長年の認識は近年覆された」と指摘した。(「アルコール消費量 四割減 健康志向のプーチン政権 ロシア」『静岡新聞』2019年10月3日付夕刊、時事通信配信)
「世の中に醜女はいない。ウォッカが足りないだけだ」という言葉が広く知られるほど酒と距離が近いロシアが大きく変わっていることがわかる。
飲まないロシア人は飛ばない鳥くらいの衝撃だが、飛ばなくなった鳥も存在するわけだから、ロシア人が飲まなくなるのも不思議ではない。
自ら節制に励み、長期政権下で国民にもそれを促し、ロシア人と切っても切れない関係にあった酒との関係も変容させてしまったプーチン氏。ウォッカ片手に赤ら顔のロシア人のパブリックイメージまで塗り替えてしまったプーチン氏。そんなプーチン氏でも弱点はある。会談場に遅刻する欠礼が日常茶飯事なのだ。
2013年11月の韓国の朴槿恵大統領との首脳会談には、40分も遅れて登場。80人余りの出席者がそろって空腹のまま待ち、午後4時47分になって「昼食」を始めた。朴槿恵は2カ月前の会談にも40分待たされた。韓国メディアはこのとき、金大中元大統領が45分、李明博前大統領が40分待たされた過去もあり、無礼で傲慢と憤っていたが、別に韓国を舐めているわけではない。
バラク・オバマ米大統領と会う時も40分、ローマ法王謁見ですら15分遅刻している。これらの遅刻は外交上の駆け引きとも言われてきたが、誰彼かまわず遅れては駆け引きでもなんでもない気もする。むしろ、2022年、世界の人々は「遅刻するんだから、戦争の決断だけ早々と下すなよ」と思ったはずだ。ウクライナ侵攻の決断を、なぜ待てなかったのか。なぜ踏み切ってしまったのか。それともプーチン氏としては待った上での決断だったのか。いずれにせよ、彼は教えてくれた。人間は酒を飲まないからと言って合理的な判断ができるとは限らないのだ。