(譚 璐美:作家)
ロイター電(3月20日付)によれば、台湾の前総統の馬英九氏が3月27日から来月4月7日まで訪中を予定しているという。南京、武漢、上海などの都市を訪れ、辛亥革命や日中戦争に関する遺跡を訪れる予定とされ、同行する台湾の学生30名が中国の学生らと交流する場も用意されている。
習近平国家主席との会談は予定にないとされるが、中国当局は「訪問を歓迎し、必要な協力をする」との声明を発表。なんらかの政治交渉が行われることはほぼ間違いないだろう。
先月、国民党副主席が訪中した際には、中国側は共産党序列第4位の王滬寧氏が会談し、直後に、中国は禁止していた台湾産の一部食品の輸入再開を発表した。今回の馬英九氏の場合、国民党の前総統であり、総統経験者の訪中は1949年の中台分断以降で初めてであることを考えれば、食品の輸入再開よりもっと重要な問題――「中台関係」について水面下で会談する可能性は十分にある。
このところ、台湾では野党・国民党がなにかと話題になっている。2022年12月の台湾地方選挙では、44歳になる蔣万安氏が台北市長に当選した。彼が「蔣経国の孫」、つまり「蔣介石のひ孫」だという話から台湾メディアが沸き立ち、久々に蔣介石、蔣経国父子の名前がニュース報道で取り上げられたのである。
ご存じの通り、蔣介石は中華民国政権の初代総統で、1948年に中国共産党との内戦に敗れて台湾へ逃れ延び、現在まで続く台湾の繁栄の礎となった。蔣経国はその長男で第六代総統である。
蔣万安の複雑な血筋
もっとも、蔣万安が果たして本当に蔣経国の孫かどうかは台湾でも物議をかもしている。
台湾生まれの蔣万安の父親の蔣孝厳は、蔣経国の婚外子だとされ、もともとは母方の姓である「章」を名乗っていた。それが2005年に法的手続きを踏んで「蔣」に改姓したことから、息子の章万安も蔣万安になった。
しかし改姓する際、蔣孝厳は可能だったはずのDNA鑑定を行わず、かつて蔣経国の側近だった人物が言ったとされる――「蔣経国は章氏兄弟に生活費を提供する」という言葉を書面にして提出しただけだった。一方、『蔣経国日記』などには、「章孝厳の父親は郭礼伯あるいは王継春である」と記されていることから疑惑が残り、未だに尾を引いているのである。
もっとも、中国人の場合、血縁関係の有無はあまり重要ではない。蔣介石の場合も、次男の蔣緯国は実子ではなく、「義兄弟」の契りを結んだ親友で日本通だった戴季陶が、日本人の恋人・重松金子との間にできた子供を養子に引き取ったとされている。