(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
3月6日に尹錫悦政権が電撃的に発表した元徴用工問題の解決案に対し、韓国国内では賛否が分かれている。元徴用工が求めている日本企業による賠償や日本政府による謝罪が含まれないこの案に、野党・共に民主党(民主党)や市民団体、左翼系メディアは強く反発している。韓国の人々の目には、日本に対して大幅に譲歩したようにも見えるからであろう。
韓国ギャラップが行った世論調査では、反対との意見が60%弱で尹錫悦大統領の支持率が2%下がって34%になったという。マスコミの多くは反対派が優勢だと報じている。
しかし、昨年11月自民党の麻生太郎副総裁が尹錫悦大統領に会った際、尹大統領は支持率が10%になっても日韓関係は改善させると述べた。今回の解決案はその当時想定していたよりも日本企業の寄付を前提にしないということでより大きく譲歩した内容になっているにもかかわらず、2%の下落は大したことがないと映ったことだろう。
反対が60%程度ならば、少ない方である。これだけの譲歩案であれば90%くらいの反対があっても不思議ではない。
また後述する国会での緊急時局集会の写真を見ると、集まった人々はそれほど多くない。週末の集会には5万人から10万人の人々が参集するという。この集会を主催するのが強硬な労組・民主労総と慰安婦支援団体の正義連であれば、大々的な動員をかけるであろう。
しかし、3月1日の独立運動記念日にも多くの韓国人は反日集会に参加するよりも訪日を選んでいる。今後抗議集会への参加者が急増する場合には一般市民の抗議の意思が反映していると言えるだろうが、そうはならないのではないか。韓国の徴用工支援運動は行き詰まってきているのではないか。
徴用工問題の解決は韓国の国益
尹大統領自身は「全ての責任を負う、解決案は国益の視点で決断したものである」と主張し、あくまでこの解決案で日本との合意に漕ぎつけたい考えを表明している。
これまでの例であれば、日本に交渉で譲歩すれば、韓国社会は批判一色になっていた。しかし、今回の案に関しては財界や呉世勲(オ・セフン)ソウル市長が支持を表明、米国や欧州にも支持の輪が広がっている。それは、これが韓国の国益に叶うとの冷静な見方があるためであろう。
メディアの論調はと言えば、全面的支持ではないにしても、これが「苦肉の策」であり、この機会に日韓関係を立て直すべき、との声が大勢のようだ。これも今までに見られない傾向だ。
解決案に納得していない元徴用工に対して、韓国世論には同情する声もあるだろう。しかし一方で、韓国国民は文在寅政権時代の感傷的な反日には飽きたはずである。今回の解決案提示をきっかけに日本製品不買運動や日本旅行自粛が起きているとも聞かない。
日本のメディアの反応を見てみると、元徴用工支援団体の不満によって尹錫悦大統領が示した解決案がそのまま生き残らないのではないかとの懸念を伝えるものが多い。しかし、この解決案は「日本を利する」というより、「韓国の国益に合致する」。その認識が日本国内でも広がることこそが尹大統領にとって助けとなると思う。
激しく批判するのは李在明氏、尹美香氏、野党系メディアなどの常連ばかり
朴振外相が解決案を発表した6日の夜、正義記憶連帯、民族問題研究所、民主労総などの市民団体からなる韓日歴史正義平和行動は、ソウル広場でローソク集会を行い、解決案を糾弾した。ローソクとプラカードを持った人たちは、政府の「第三者併存的債務引き受け案」の強行は親日・屈辱外交だと批判した。
同団体は7日に元徴用工や遺族たちとともに国会本庁会談で緊急時局宣言を行った。この週末には抗議集会も開催するという。