2021年までそれほどでもなかった超過死亡が、2022年に激増した明らかな原因は、感染が増えたことだ。超過死亡は初期から一貫してコロナ死者数のほぼ3倍で、致死率は2022年には0.1%程度とやや下がったが、分母の感染者数が激増した。2020年には23万人、2021年には173万人だった検査陽性者数が、2022年には2700万人と15倍になった。
だがこれは、なぜ超過死亡が増えたのかという問題を、なぜ感染が増えたのかという問題に置き換えただけだ。同じコロナウイルスなのに、ワクチン接種後の2022年に大きく感染者が増えたのはなぜか。この時期に国民全員に影響しそうな大きな変化は2つしかない。ウイルスの変異とワクチン接種である。
「ファクターX」が効かなくなった?
感染が激増した時期と、コロナウイルスの主力がオミクロン株に変わった時期は一致している。したがって「初期(武漢株)には抵抗力のあった日本人が、オミクロン株には抵抗力がなくなった」と考えることは可能である。
2020年に日本のコロナ被害が際立って少なかったとき、山中伸弥氏がファクターXという仮説を提唱した。これは東アジアにコロナ系ウイルスに対する(広い意味の)自然免疫があるというものだ。これはワクチンなどの獲得免疫とは違い、ウイルスがこの免疫を回避するようになると効かなくなる。
ファクターXの有力候補とされている白血球抗原HLA-A24という遺伝的な細胞性免疫をもつ人が日本人に多いが、これはデルタ株やオミクロン株には有効ではないといわれる。
この他にも東アジア特有の要因でコロナ系ウイルスに強いという仮説はたくさん出された。いずれも学問的には決定打とはいえないが、そういう地域的な要因が働いたことは事実だろう。結果的に日本のコロナ死亡率がヨーロッパより大幅に低く、それは(ロックダウンもしなかった)日本のゆるやかな行動制限では説明できないからだ。
ところがデルタ株からファクターXが効かなくなり、英米に近づいた。次の図のように超過死亡率でみると、2020年にはマイナスだった日本の超過死亡率が2021年から英米に近づき、2022年にはほとんど同じになった。
つまりウイルスが変異し、ワクチンへの耐性を備えて生き残った。言い換えると、ワクチンの影響で感染しやすく弱毒性のオミクロン株に変異したと考えることもできる。