馬毛島は無人島で地権者もほぼ一人だ。話はトントン拍子に進むだろう――と防衛省は考えていた。だが、そうはならなかった。交渉が難航したのだ。
当初、島を買い取りたい防衛省に対し立石氏は賃貸でと主張した。その後、やっと買い取りで合意したが、今度は金額の折り合いがつかない。双方の提示する金額があまりにもかけ離れていて交渉のテーブルにすらたどり着けない状況が続く。こうして馬毛島の基地計画は頓挫してしまった。
そんな状況の2011年6月、私は馬毛島で立石氏の話を聞いた。
「俺の神様」
その日、どんより湿った雲を搔いて鹿児島空港を飛び立ったビーチクラフト機でまず到着したのは種子島。そして島の西之表漁港から小型連絡船で40分、馬毛島の岸壁に到着した。
立石氏は、まず「砦」と呼ぶ建物に向かった。そこには10人ほどの土木作業員と賄いのおばさんが住み込んでいた。6階建ての建物で電気は自家発電、水は地下から汲み上げているという。
近くには「立石神社」と命名されたミニ神社もある。立石氏は神社に向かって柏手を打ち、深々と頭を下げた。
「工事の安全と馬毛島の行く末をいつも“俺の神様”にお願いしているんだ」