買収合意の1年半後に

 私が立石氏と会ったのはその時だけだが、何とも強烈な個性の持ち主だった。その後も彼は、その一癖も二癖もある個性と自らの築き上げた経験で、防衛省を相手に一歩も退かず丁々発止と渡り合った。一方の防衛省も馬毛島を諦めなかった。

 島の買収交渉は平行線のままに紆余曲折を経て、ひと波乱ふた波乱の末に2019年の11月にようやく160億円で合意となった。

 結局は立石氏の粘り勝ちと言えるだろう。

 そしてその一年半後、立石氏は老衰で静かに88年の生涯を終えた。

 さて今、政府はこうして買い取った馬毛島を不沈空母さながらの基地にすべく、着々と計画を進めている。

 2011年に私が訪れた時、地元の西之表市の住民の意見は3分7分で基地に反対の声の方が強かったように思う。

「あそこが基地になり、アメリカの戦闘機が吠えまくると騒音や基地の人間で環境は一変するだろう。屋久島だっておちおちとはしていられないよ。魚も獲れなくなるのが目に見えている。断固反対だね」と、ひとりの漁師は言っていた。

 確かにこののんびりした風景は激変するだろう。

馬毛島で離着陸訓練が予定されている米海軍F/A-18ホーネット。岩国基地から訓練地、硫黄島までの往復はパイロットに大きな負担をかける(写真:橋本 昇)
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