半端なかった中国に対する警戒感

──橋本政権時代に「台湾に日本の新幹線技術を導入したい」という李登輝総統から日本政府への要請に応じて葛西さんも尽力したようですが、中国が日本の新幹線技術を導入することには懸念を示し、新幹線技術をブラックボックスにしないまま中国に売った川崎重工業とJR東海の契約を切った、というお話がありました。習近平氏が国家主席になる随分前ですが、葛西さんの中国に対する警戒心の強さは現在の日本の企業や政府を凌ぐものがあります。

森:中国を毛嫌いする意識はとても強かったようです。反共産主義だったことは間違いありませんが、どうしてそこまで中国を嫌ったのかは分かりません。

 江沢民・元国家主席が日本に来て「リニアの実験線に乗せてほしい」と申し出た時にも「技術を盗まれるからダメです」とあからさまに断りました。

──葛西さんは中国の技術移転を警戒したのか、中国という国家の成長に脅威を感じていたのか、どちらだと思われますか?

森:両方でしょうね。日本は再軍備すべきだと葛西さんは考えていて、安全保障の問題には非常に敏感でした。軍事的な意味でも中国の脅威を感じていたでしょうし、日本の新幹線技術が軍事転用されたら困るという考えもあったのではないでしょうか。

──葛西さんは首相官邸ばかりではなく、NHKの経営委員の人事にも積極的に参加して、NHKの体質や文化をコントロールしようとします。富士フイルムホールディングスの古森重隆社長を経営委員会に送り込み、アサヒビールの福地茂雄社長をNHK会長にしたのがこの例で、その背後には「四季の会」がありました。どうして葛西さんはNHKトップの人事にここまで介入しようとしたのでしょうか。

森:NHKは国営放送ではなく、国有放送でもなく、公共放送です。国営放送は税金でまかなわれる国の放送機関です。しかし、公共放送は視聴者からお金を集めて公共のために公平中立な放送をするという約束です。イギリスのBBCなども同じです。

 そして中立性を保つために、経営委員という12人の外部の有識者が会長を選ぶという立て付けになっている。しかし、裏を返せばこの12人に意中の人を送り込んでしまえば、NHKトップの人事を掌握できる。安倍・菅政権や葛西さんはこういった発想を持っていました。

 そこで、葛西さんが率いる四季の会のメンバーが実際に経営委員になり、ここ何代も会長人事を決めてきました。この前やめた前田晃伸さん(元みずほフィナンシャルグループ社長・会長)も、葛西さんの後の国家公安委員で、その後四季の会のメンバーとなり、NHKの会長になった人物です。

──葛西さんがNHKトップの人事にこだわったのは、NHKに保守的な報道をさせるためだったのでしょうか?